自分らしくあるために必要なこと。男性がミスコンに出場!?『MISS ミス・フランスになりたい!』

日本の女性として「勝つ」とは

 就活、婚活、妊活。日本社会において女性が一般的な幸せを勝ち得るためには、この3つの「活」を無難にこなしていくことが必要と言われていた。就職活動をしてある程度の収入の確保できる会社に就職し、そこで出会った高収入の男性と結婚する。そして、無事に夫のコピーを生み(もしくは夫のコピーを生んで育てられるような娘を生み)、育て、ひな壇付きの結婚式で次世代に自分たちと同じライフスタイルを引き継ぐ。
(C)2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS

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 しかしながらそのゲームを勝ち抜くことは難しい。なぜならばゲームの判定をするのは多くの場合は男性で「男性から選ばれること」が必要なゲームなのだ。努力の仕方がわからない人もいるだろう。精子バンクや卵子のドナー制度が一般化しているとは言い難い日本では、妊活するにはまずは婚活を乗り切ることが必要である。  そしてその際に必要なのが「適度に」賢く「適度に」控えめであること。既にこのような女性像は時代の変化と共に駆逐されつつあるが、一方で「女性活躍社会」を掲げる政府は、女性たちに過剰に明晰な頭脳も積極性も求めていないのかもしれない。自分たちの領分を犯さない限りでの「女性活躍」。それは、日本の五輪組織トップの引責のニュースや女性政治家の夫婦別姓に対する態度表明からも透けて見える。  また、その「適度さ」は一般社会をも侵食している。就職活動では「エリア総合職」という、出世の上限はあるが転勤範囲に制限があり、夫の生活スタイルに合わせて家事育児と仕事が両立できるライトな総合職が人気であり、婚活では四大卒は子どもの教育係として適任と人気だが、あまりに高学歴だとやはり敬遠されるという。  ところが皮肉にもミスコンである「ミス・フランス」の戦いにそうした「適度さ」は全く要求されていない。スタイルの維持やマナーを身に付けることにおいてアスリートのようなストイックさが要求されている。そしてその目的とは「社会にメッセージを届けること」。  ミス候補者のコーチ役のアマンダ自身も大会を仕切る男性の下のポジションにいるビジネスパーソンであるが、彼女自身が古い感覚に捉われた社会で働かねばならないことの葛藤も映画は描いている。そして納得のいかない場合には男性上司にストレートに疑問をぶつけている。
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 最初のオーディションで「何者かになりたい」と言い、飛び抜けた美しさを持つアレックスに一目置いたアマンダは、くじけそうになるアレックスに対して激を飛ばす。自分の願望を叶え、何者かになりたいと思ったら、自分に対して引いていてはいけない。最大限の努力をしなさいと。そこにはスポーツドラマのような清々しさがあった。  一方で、政治家も含め日本のメディアに登場する女性たちにそのような清々しさはあるのだろうか。どこかで男性社会に忖度しながら「女性活躍」を演じているのではないか。

「美しさ」とは何か

 周囲のサポートを受けて、自らの美しさを磨き、アピールしようと懸命になるアレックス。劇中でめきめきと美しくなり、輝いていく様は圧巻であるが、そこになぜか「女らしさ」は感じなかった。
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 では、「美しさ」と聞いて思い浮かべるのは何か?  ある人は肉体美を思い浮かべ、ある人は繊細さを思い浮かべ、ある人は母のような強さを思い浮かべるかもしれない。  それは人それぞれであり、また美しさを持っている人物によっても違うのかもしれないが、それが当たり前のこと。「美しさ」と言うと、顔とスタイルの造形美を思い浮かべがちであるが、それは当然一義的ではないということに気付かされる。  ところで、アレックスを演じるアレクサンドル・ヴェテールはトランスジェンダーである。男性の体を持ちながら、ジャン・ポール=ゴルチエのレディース・コレクションに出演し、モデルとして成功した。子どもの頃から女装をすることに喜びを感じていたが、目立ちたくなかったので女装には積極的ではなかったというヴェテール。ところが、造形美術の勉強をするために故郷の小さな村を離れ造形美術の勉強をし始めた時に彼の世界は変わったという。  ヴェテールは自身の経験を以下のように語っている。 「村を出て芸術の世界に入ったことで、自分が安全な場所にいると思えるようになりました。芸術の世界こそが、偏見にさらされず自分自身であることが許される寛容な世界であると気がついたからです」  主人公のアレックス同様に、アレックスを演じたヴェテール自身も他人の目を離れて自分を解放することで、キャリアと成功を掴んだのだった。そしてこの作品の主役を演じることで「美しさ=女性らしさ」というジェンダー規範から自由になり、自身の成長も感じることができたという。
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自分の価値を決めるのは誰か
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