フアン・カルロス一世の長女のエレナ王女(写真中央)と、クリスティーナ王女(左) Getty images
スペイン国王フェリペ6世(53)の姉二人エレナ王女(57)とクリスチーナ王女(55)が父親ファン・カルロス1世前国王(83)が長期滞在しているアラブ首長国連邦のアブダビを訪ねたのを利用してワクチンの接種を受けたことがスペインで大々的なスキャンダルになっている。
これを最初に特ダネとして報じたのは電子紙『
El confidencial』(3月2日19時47分)であった。
それに他紙がすぐに追随して各紙がそれを報じた。筆者はスペインのすべての紙面に目を通すことはできなかったが、恐らくスペインのすべての紙面、テレビ、ラジオがそれを大なり小なり取り上げたと思う。同様にアルゼンチンやメキシコでも注目を集めた報道になっていた。スペインの紙面で共通しているのは、王女という特権を利用した接種を批判していることであった。
それはまた、ファン・カルロス前国王の最初は愛人そして次に隠し金のスキャンダルが今もスペインで止むことなく続いているのに加え、今回の前国王の二人の娘が撒いたスキャンダルはスペインで共和制の擁立への新たな動機を生む機会をつくっていることを意味している。
今回の出来事を報道した紙面の一部は、二人に同行して治安警察から護衛が計6人同行しての移動費用で3万3000ユーロ(400万円)が内務省の負担になっていると報じ、それは国民の税金から払われたものだと指摘した。市民では得ることのできない特権を利用した上に、市民が納めた税金がその費用に充てられたということになれば彼らの多くは王家への支持から離れて行くのは必至である。〈参照:「
El Diario」〉
また、社会労働党とポデーモスの連立政権内でもこの事件について多くの閣僚が不満を表明している。ただ、サンチェス首相は前国王のこれまでの振る舞いに控えめながら批判はしても、フェリペ6世の王位は守るという姿勢を示している。なにしろ、王制を守るというのは、共和制を支持すべきが本来のイデオロギーである社会労働党が民主化されて以降掲げていた党約である。ただ、そうは言っても同党出身の自治相ミケル・イセタは「ひどい」「非常に悪い」という言葉を吐いて不満を表明している。今まで、閣僚が王家を指してこのような言葉を表明することはなかった。これも時代の変化であろう。他の閣僚も王女が特権を利用しての行為に批判的な発言をしている。
特に第2副首相でポデーモスの党首パブロ・イグレシアスは「スペインの社会は王家のメンバーがアブダビでコロナのワクチン接種を受けたことを受け入れない。王家の存在意義について問われている時に、王家自らが社会で王家に対して憤慨をもたらすような新たなスキャンダルをつくってしまったことでその問いがさらに発展して行くことになる」と述べたのである。 ポデーモスは共和制擁立の急先鋒にある政党だ。