「カルト2世問題」か、それとも「宗教2世問題」か。<NHK特集から見える第三者にとっての課題(2)>

当事者は不用意な一般化を目指してはいない

とある新宗教団体の集会に集まった若い信者たち

とある新宗教団体の集会に集まった若い信者たち(撮影・藤倉善郎)

 「宗教2世ホットライン」における「宗教2世」「宗教2世問題」の定義は、それぞれ最初の1文は〈自ら信仰を獲得したわけではないが、親がある教団の信者であり、出生時あるいは幼少期から教団の影響を受けて成長した人〉〈宗教2世が教団内で経験する様々な抑圧や、その延長線上で経験する脱会前後の困難などの問題を総称するもの〉というものだ。かなり抽象的で対象の範囲が広い。  しかし、ハートネットTVと違って親子関係に特化しておらず、教団の影響にもはっきり言及している。  そして、こうも書かれている。 〈宗教2世問題を語る際「スピリチュアル・アビュース」という概念が用いられることがあります。スピリチュアル・アビュースとは、子どもに対する宗教的アプローチの不正使用・乱用であり〉 〈宗教2世問題は人権問題として考えるべきもの〉  スピリチュアル・アビュースとは直訳すれば「精神的虐待」あるいは「霊的虐待」だ。この言葉を提唱しているジャーナリストの藤田庄市氏は、2世問題に限らず1世も含めて(必ずしもカルトに限定もせず)信仰による「精神的な呪縛」の構造を批判的に捉え、そこで生じる、人の権利や尊厳を傷つける行為や現象を「スピリチュアル・アビュース」と呼んでいる。  ここには暴力・暴言・ネグレクト等の狭義の虐待以外の要素も含まれるが、いずれにせよ評価の基準は人権や人間の尊厳だ。  「宗教2世」の説明は、第三者の受け止めようによって「宗教」全般への一般化のリスクもあるとは言え、一方で「寺の跡継ぎ問題」全般や、外国出身の宗教マイノリティ全般や、信仰継承全般も全て抱き合わせて「2世問題」としてアピールしようとする姿勢にも見えない。長年「カルト問題」における議論の蓄積を経てきた第三者にとっては物足りない面もあるかもしれないが、従来的な「カルト問題」の問題意識と矛盾しないどころか、むしろ同じ方向を向いている。  結局のところ皆、人権や人間の尊厳について語っているのだ。当事者であれ第三者であれ、「カルト」という言葉を使うことが重要なのではない。何を問題視しているのかが的確であれば、それでいい。  実際私自身、「幸福の科学学園」という2世が集まる学校の問題を『週刊新潮』でリポートした際、「カルト」という単語を使わなかった。ことさらに避けたわけでもなく、紙媒体の限られた字数を、「カルト」という単語について説明することより学園の具体的な問題を記述することに費やしたかったという理由にすぎないが。

「言葉狩り」ではない

 鈴木氏は記事で、ロフトヘヴンから配信されたオンライントークイベント「カルト2世と機能不全家庭」のタイトルが、出演者である2世の希望で「宗教2世」に変更された件に言及している。鈴木氏はそれ自体には理解を示しているものの、〈当事者からの要望や企画・制作側の配慮によって「カルト2世」表記が排除される事例は今後も起こり得る〉と、メディアやイベンター側の自主規制を懸念している。  この懸念にも私は同感ではあるが、上記の通り、重要なのは単語ではなく、そこで語るべき問題を語れているかどうかだ。  別に、2世問題の当事者たちが第三者の議論に対してまで「カルト2世という言葉を一切使うな」というクレームをつける等の言葉狩りをしているわけではない。仮にそう主張する当事者がいたとしても、主張すること自体は自由だ。他者の表現を不当に萎縮させる現実的な圧力でさえなければ、何の問題はない。  私自身、当事者の協力を得てイベントを開催したり記事を書いたりする場合、当事者からの意向の表明があれば、ある程度尊重すると思う。ハートネットTVについても、番組の構成はともかくとしてタイトルについては、「カルト」をゴリ押ししなかったことはむしろいいことだろう。
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「第三者」には何ができるのか?
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