画像はイメージ(adobe stock)
2月22日にtwitter上である書籍に書かれてある確率の説明が拡散され、それがもとで2月末頃から炎上騒ぎになりました。この書籍は、ビジネス書であり、高校生向けの参考書ではありません。炎上したのは次のような説明が書かれていたからです。
「20代女性と30代女性、結婚できる確率が高いのはどちら?」
これについてこの本での説明の要旨は次のようなものでした。
「『結婚できる』をテーマにしたとき、起こりうるすべての場合は『結婚できる』『結婚できない』の2択だから、20代、30代に関係なく結婚できる確率は1/2である。」
この考え方はおかしな点を含むものなのですが、これが単なる一人のつぶやきならば見過ごされていたかもしれません。しかし、これが適性検査SPIの対策本、ビジネススキルを身につけるための本として書かれているので、そこから誤りを学んだ人は少なくないと考えられ、まず、多くの数学関係者が指摘しました。
それを受けてその本の著者は、謝罪するような発言をしたものの、謝罪の後で、ご自身の正当性を主張するような持論を展開したので、元に戻り、さらに炎上する騒ぎになりました。
(注)適性検査SPIとは、企業が人材を採用するときに応募者の能力等を把握する目的で行われる試験のことです。
この本に関しては、今後善処するようですから、今はそれを信じてここでは書名などは出さないでおきます。しかし、このような大切な部分を誤る書籍は他にもあり、誤解がこれ以上広がらないために取り上げることにしました。
また、「結婚できる」「結婚できない」についてはセンシティブな問題を含むかもしれませんが、以下においても炎上した題材を引き継ぐこととします。
まず、「結婚できる確率が1/2ではない」ではなく、「結婚できる確率が1/2とは限らない」の方が表現として正確です。
この議論の出発点になるのは確率の定義についてですが、ここでは多くの人が中学、高校で習うもので考えることとします。炎上騒ぎになった書籍もこの定義を踏襲しているようだからです。
まず、20代女性が仮に「結婚できる」か「結婚できない」の2択であるところまで認めたとしましょう。しかし、ここで「結婚できる」確率が1/2であることを主張するためには、「結婚できる」ことと「結婚できない」ことが同程度に起こりうることの理由が必要になります。(高校数学では「同様に確からしい」などと表現して問題を設定します。)
単に、2つの結果があるだけでは不十分で(実際、同程度ではない)、これがいえない限り、確率は1/2とはならないのです。(高校数学の問題では、原則としてこの部分は問題文の中に書いてあります。)
例えば、
◯ ● ● ● のように白球◯が1個、黒球●3個が入っている箱があるとしましょう。白球と黒球は個数が異なりますから、箱から1個取り出す場合、「白球を取り出す」ことと「黒球を取り出す」ことは同じ(対等)ではありません。したがって、結果が2択であっても「白球を取り出す確率」は1/2ではありません。
同じような、誤解の多いものをざっくりとした設定であげてみましょう。(細かく設定しないと数学としてはよくないものもあります。)
【誤り1】コインを2枚投げた。それぞれのコインは表裏が等確率で出るものとする。このとき、表が出た枚数は0枚、1枚、2枚の3通りがあるから、表が2枚出る確率は、1/3である。(正解は1/4)
【誤り2】街中で無作為に1人を選び、声をかけた。血液型はA、B、AB、O型の4通りだから、声をかけられた人がA型である確率は1/4である。(これは、そこにいる人達の血液型の割合によるので1/4とは限らない。)
【誤り3】宝くじは、「当たる」か「はずれる」かのどちらかだから「当たる」確率は1/2である。
【誤り4】確率1/3で起こることは、3回行えば必ず1回起こる。(100回行っても起きないこともあります。「確率1/3」は起こりやすさの目安としてはよいかもしれませんが、必ず3回のうちに起こるわけではありません。)
この他にも確率の誤解は数多くあります。ここであげた例はよくあるものなので、今後、誤ったことが書かれている書籍には注意してください。
結婚できる確率を1/2とする考え方はやってはいけないのか
新たに、個人が新しい確率論を作ることは自由です。今後も多くの人に受け入れられるものが出てくる可能性はあります。しかし、この本の著者の考え方は、すでにパスカル(17世紀)の時代に否定され、その後を継いで現在の確率論にたどり着いています。ですので、
唱えるのは勝手だが、役に立たないことがわかっているということになります。当然、日常生活でその考えを元に行動を設計すると大きな失敗をする可能性があるのです。