本作を語るにおいては、主演のイ・ジュヨンの熱演は外せないだろう。彼女はモデルにした実在の人物の努力と葛藤に迫るため、40日間のトレーニングを受け、すべてのシーンをスタントなしで演じきった。
初めての野球の撮影シーンでは、気温はマイナス14度、体感温度はマイナス20度という極寒だったが、イ・ジュヨンは口が凍って言葉も出てこない状況の中、薄いウィンドブレーカーの姿のままマウンドに立ち、ボールを投げた。その役者としての気迫は、そのまま尋常ではない精神力を持つ主人公の姿と重なっている。
さらに、新コーチを演じたイ・ジュニョクも、一度はプロを目指した選手だというリアリティを出すために、自らトレーニングを申し出て、イ・ジョユンたちと一緒に特訓。撮影前の1ヶ月でビルドアップに挑み、体重の増量にも成功した。
他にも、主人公の母親役のヨム・ヘラン、父親役のソン・ヨンギュも忘れられない愛おしいキャラクターを演じ切っている。実在する人物とさえ思えてしまうほどの存在感と、そのわずかな表情の変化から垣間見える複雑な感情も、ぜひ読み取ってみてほしい。
主人公は「女子だから」という理由で野球のプロテストを受けられないでいる、性差別を受けている立場だ。それと同時に、本作では「女子であるから有利だ」という視点もまた、性差別につながるのではないか、という諫言もある。
何しろ、劇中では「あなたが女子であることは短所であるかもしれないが、長所でもある」と主人公に助言する人物がいる。それだけを聞くと「正しいアドバイス」とも思えるかもしれないが、それは女子ということを「利用」しているだけとも解釈ができる。
現実においても、「女はいいよな」「男はいいよな」と、自分とは異なる性別に対して羨む、嫉妬をした経験がある人は決して少なくはないだろう。だが、それは危険な考えである。差別とは「あの人たち(集団)が◯◯だから、あの人(個人)も◯◯なんだ」と決めつけてしまうことから生まれる。その◯◯には「劣っている」「損をしている」ことだけでなく、「優れている」「得をしている」ことも、間違いなく含まれるのだから。
その無自覚な性差別に対する主人公の返答は、あまりに尊いものだった。「男だから」「女だから」という理由で何かを諦めていたり、性差別を受けたり、はたまた性差別をしてしまう側であった人にとっては(それが無自覚であっても)、一生に渡り大切にしたい価値観になるのではないか。