Hareliら(2020)は健康に見える印象と表情との関係を3つの実験から検証しています。
実験1では、30歳以下の若者と70歳以上の高齢者の幸福表情、怒り表情、悲しみ表情、中立(真顔)表情を用意します。そして、これらの写真を様々な年齢の実験参加者に見せ、健康的に見える表情を選択してもらいます。実験の結果、幸福表情の高齢者は、若者(若者の表情は問わない)と同じくらい健康そうに見えるということがわかりました。「高齢者は不健康である可能性が高い」というステレオタイプを、笑顔は凌駕する力を持っているようです。
実験2では、実験1と同じ実験を新型コロナウィルスがパンデミックを起こしているときに実施しました。
実験の結果、「幸福表情が健康そうに見える」ということが高齢者だけでなく、若者にも当てはまることがわかりました。ウィルスが蔓延しているような「誰もが不健康かも知れない」と想定されるような状況において、幸福表情は健康のシグナルとして認識されるようです。
実験3では、若者と高齢者の写真ではなく、実験参加者が普段接する機会の多い、あるいは少ない民族の様々な表情写真を用意します。
そして、これらの写真を様々な年齢の実験参加者に見せ、健康的に見える表情を選択してもらいます。実験は、新型コロナウィルスがパンデミックを起こしているときに実施されました。実験の結果、民族の違いに関わらず、幸福表情の人物は健康そうに見えることがわかりました。また、他の表情に比べ、怒り表情は不健康そうに見えることがわかりました。
無論、笑顔が健康である証拠というわけではありません。しかし、笑顔は健康そうに見える、特にこの効果は世界がウィルスの脅威下にあり、誰もが不健康かも知れない、という不安が大きいときに、顕著に感じられるということです。
仕事柄、私の周りには人前に立つ仕事や多くの部下を持つ方々が多いのですが、皆、常にご機嫌です。本当にご機嫌かどうかは別ですが、少なくとも、人前では元気よく笑顔を振りまいています。感情は伝染します。少しくらい自身の機嫌が優れなくても、笑顔を作ってみましょう。自身の笑顔が周りに伝染し、楽しい雰囲気が醸成されます。次第に繕っていた笑顔も本物の笑顔になるでしょう。
ピンチのときこそ笑ってみて下さい。その笑顔がピンチを好転させてくれるかも知れません。新たなチャンスをもたらしてくれるかも知れません。
<文/清水建二>
参考文献
Hareli S, David O and Hess U(2020) What Emotion Facial Expressions Tell Us About the Health of Others. Front. Psychol. 11:585242.
doi: 10.3389/fpsyg.2020.585242