マイノリティへの不当な扱いで大炎上。汚職問題に揺れるゴールデングローブ賞

アジア系の米作品が「外国語映画」扱いに

 ご覧いただいたとおり、ダイバーシティ欠如への批判は腐敗した組織の問題が根底にあるのだが、それでも「ポリコレを振りかざしている人が騒いでいるだけ」とダンマリを決め込む人もいるだろう。  では、アジア系の作品が不当な扱いを受けていたら、どうだろう?  今回のGG賞では、韓国系移民を描いた『ミナリ』が外国語映画賞を受賞したのだが、同作品のカテゴライズにも批判の声が上がっている。  HFPAの言い分は、「韓国語の台詞が多いので外国語映画扱いにした」というものだが、公式ツイートでは”『ミナリ』(アメリカ)“と表記されているのを見てもらえばわかるとおり、『ミナリ』はアメリカ映画で、GG賞もそれは認めるところだ。  アメリカで製作され、賞の主催者もアメリカ作品であることを認めているのに、主要キャストがアジア系で韓国語の台詞が多いからというだけの理由で外国語映画にカテゴライズされるのは、あまりにも不自然だろう。  製作は近年名作を連発しているA24ブラッド・ピットが率いるプランB、主演は『ウォーキング・デッド』シリーズでお馴染みのスティーブン・ユァンと、どう見ても「メイド・イン・アメリカ」なのだが……。  受賞スピーチで、監督・脚本のリー・アイザック・チョン監督は、次のように述べている。(参照:Entertainment Weekly)  「それは(『ミナリ』が表現しているのは)どんなアメリカの言葉よりも、どんな外国の言葉よりも深いものです。それは心の言語であり、私自身がそれを学び、それを伝えようとしています。今年は特に、私たち全員がこの愛の言葉をお互いに話す方法を学べることを願っています」

チャドウィック・ボーズマンが死後に受賞

 さて、暗いニュースばかりが注目されたGG賞だが、最後に明るいニュースを。まずは昨年急逝した『ブラックパンサー』ことチャドウィック・ボーズマンの、ドラマ部門主演男優賞の受賞だ。  ボーズマンは、昨年スパイク・リー監督と組んだ『ザ・ファイブ・ブラッズ』でもカリスマ的な演技を見せたが、受賞した作品は実話を基にしたミュージカルが原作の『マ・レイニーのブラックボトム』。  1920年代、音楽業界のとある一日を90分程度にまとめた本作は、そのコンパクトでエンタメ性に溢れた作りとは対照的に、現代まで続く黒人差別などの複雑な問題をテーマにしている快作だ。  授賞式では、妻が亡き夫に代わって涙の受賞スピーチ。今年のGG賞のベストモーメントと言える名場面を演出した。  もうひとつの明るい要素は、近年破竹の勢いを見せながらも、業界に根強く残る「ストリーミング不信」に悩まされてきたネットフリックス作品の圧勝だ。  ロイヤルファミリーを演じた俳優たちが軒並み受賞をはたした『ザ・クラウン』、日本でも大人気となった『クイーンズ・ギャンビット』など、蓋を開けてみれば10冠を達成。コロナショックの影響もあり、こうしたストリーミング・サービスが製作する作品は、ますます勢力を拡大していくだろう。  パンデミックに揺れるエンタメ業界だが、ネガティブなニュースで作品の栄誉が曇らないよう、改革に期待していきたい。 <取材・文・訳/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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