「Jアノン」はなぜ日本でトランプを支持したのか?<陰謀論問題だけでは片付かない日本的ナショナリズムの危うさ 第2回>

真実を含む陰謀論は始末が悪い

 Qアノンが唱える陰謀論は、米政府がディープ・ステート(影の政府)に牛耳られているとか、大統領選で不正があったという類いについては、たとえば日本の選挙で「ムサシ」による表の操作が行われているとする日本版の陰謀論とも重なるので、それなりに受け入れやすいだろうし、実際、幸福の科学信者たちによるトランプ応援デモにおいても類似の内容の演説が行われていた。しかしアメリカの民主党関係者による幼児虐待とか悪魔崇拝とか、日本人にはピンとこない内容も伴っている。  Qアノンと全く同じ陰謀論がそのまま日本に広がり根づくとは思えない。Qアノンの陰謀論のうち、日本特有の政治運動にとって都合の良い部分が流用されているという構図と見るべきだ。  特に日本でのトランプ応援運動は、いずれの団体も中国共産党批判の色合いが強い。本来の目的はそちらではないかと思えるほどだ。  その運動がどんなに胡散臭く見えても、中国には実際に多方面で深刻な人権問題が存在している。Qアノン的な陰謀論と連動してはいるものの、中国における人権問題という「そこだけ切り抜けば真実」と言える要素を多分に含んでいる。

中国共産党批判とレイシズムの混在

 私が危惧するのは、日本における中国共産党批判の運動にレイシズムが混在しているという点だ。日頃レイシズムに強い関心を抱いている人々には、思い当たる節が様々あると思うが、私自身の取材体験から強く連想するのは、2008年頃に日本でも盛り上がった「フリーチベット運動」との関連だ。  夏に北京五輪が予定されていた2008年の春。チベットの各地で人権弾圧に抗議するデモが多発し、発砲を含む暴力で制圧を試みた中国当局への反発から暴動へと発展した。いわゆる「チベット騒乱」だ。
チベットのトゥルナン寺院

チベット騒乱が起こった2008年、北京五輪開催中のチベット・ラサの中心街トゥルナン寺の参拝者と、屋根の上から銃を携えて見張る武装警察(筆者撮影)

 長野での聖火リレーではフリーチベット運動の一群や中国を支持する中国人と思しき一群が大声を張り上げ、胡錦濤国家主席(当時)訪問時の早稲田大学前のロータリーでは機動隊がそれらを蹴散らすという大混乱が起こった。機動隊が暴力を用いた排除を行い大混乱に陥っていたことから、勝手にこれを「早稲田騒乱」と呼んでいる。私はそれぞれの現地で取材した。
2008年の早稲田大学前

早稲田大学前でチベット旗を掲げる一群と、それを遮るように中国旗を掲げる一群(2008年、筆者撮影)

 ここに、もともとチベット問題に関心を寄せてきた保守活動家などもやってきて、その中には「シナ人は出ていけ!」「ゴキブリ」などと中国人サイドに罵詈雑言を投げつける者もいた。2006年に設立されていた在日特権を許さない市民の会(在特会)の桜井誠氏も、これに加わっていた。  チベット人やフリーチベット運動に関わる人の中には、「中国はチベットから出ていけ」という言葉を使う人も確かにいる。しかしそれは、チベットを侵略し自国領とした上でチベット人を弾圧している中国を指したもので、日本においてマイノリティである中国人に向けてマジョリティが「出ていけ」と言うのとは、全く意味が違う。  それでも、「出ていけ」と言いたくなるチベット人たちの気持ちや運動に便乗して、どさくさに紛れて「日本から出ていけ」「いまこの場から出ていけ」という文脈で喚き散らす一群が現にいたのだ。
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中共の人権弾圧と言う事実が強化するややこしさ
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