フライドチキンに「三本足」「羽なし」が使われているという“都市伝説”の真偽

フライドチキン 大手フライドチキンチェーンにまつわる都市伝説が浮かんでは消え、消えては浮かんでくる。その一つは「バイオテクノロジーで三本足や四本足のブロイラーをつくりだし、モモが大量に取れるようにした!?」という内容だった。ネット上にはそれらしい写真が掲載され物議をかもしたことがある。しかしその写真は合成写真風で、信頼性はいま一つというところだろう。  この話が流布されたのは「二本しかないモモ部分が、こんなに安く大量に賄えるわけがない」という素朴な疑問からだった。しかし、名指しされたチェーン店の商品構成を見れば、他の部位も均等に使われているのでこれは眉唾ものだ。 「それは完全に噂でしかない」と養鶏業者のA氏は語る。 「ごくまれにDNA異常で三本足の鶏が生まれることはありますが、結局は二本の足で立つので、三本目の足はうまく育たない。人工的に生み出せたとしても効率はよくなりません。人間の思い通りにはいかないでしょう」  もう一つは「遺伝子組み換え技術で開発された羽なしブロイラーが使われている」というものだ。この話が広まったのは、8年前。実際に羽なしブロイラーが開発され、2008年にセンセーショナルに報道されたからだった。

不気味さから実用化しなかった「羽なしブロイラー」

 開発したのはイスラエルのレホボット研究所の遺伝学者アブドル・キャハナー。遺伝子組み換え技術ではなく、異種交配の方法で作り上げた。開発した理由は「羽が無く皮下脂肪が少ないので効率良く肉を生産できるし、鶏舎の通風のためにファンを使わないので飼育コストも下がる」という。また、脱毛の手間がかからないとも。  茨城県のブロイラー生産者B氏はこう語る。 「施設に運ばれたブロイラーの生体は、まず頭部を上にしてフックにかけられます(懸鳥)。その後一羽ずつ首の頸動脈を切って放血します。これは、血液が回って品質劣化を防ぐためのもので、食鳥に限らず食肉処理に必須の第一プロセスです。食鳥の場合は放血が終わるまでには絶命し、脱毛しやすいように60度前後で30~90秒間湯漬けするのが一般的。その後、脱毛へと進みます。この湯漬け・脱毛のプロセスを省略できるのです」  確かに効率的だが、羽なしブロイラーの開発が報道されると、世界中の動物保護団体は一斉に非難コメントを発表した。「科学者は食べ物を支配し、より安くしようとしている。しかし、その結果は動物にトラウマをもたらし、人々に恐怖を与えるものだ」(地球の友)などである。 「その後、このブロイラーが商品化されたという事実は確認できていません。フライドチキンチェーンが使っているという話も、ウワサの域を出ないでしょう。実用化できなかった最大の理由は、このブロイラー開発のニュースが広まり、不気味さが消費者に受け入れられなかったことに尽きます」(B氏)  ただ、効率を最優先させる現代の食システムの下では、すでに成長ホルモン遺伝子を導入して従来の鮭より2倍の速さで成長する「遺伝子組み換え鮭」の発売が間近と言われている。また、遺伝子組み換え技術を応用した動物の研究・開発も各国で進められている。将来、効率を優先した不自然なブロイラーがいつ開発され、使用されるかもわからない。実に恐ろしきは人間なのである。 <文/郡司和夫(食品ジャーナリスト)>
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