―― 最大の問題は、政治と国民の信頼関係が崩れていることです。特に自民党議員の即日入院、党本部職員の一斉検査には、「上級国民」という批判が集まっています。日本は権力との距離次第で命が助かるかどうかが決まる、命が不平等な国になったのかと感じます。
小川 これは政治姿勢の問題です。政府が5人以内の会食を提言している中、総理は8人以上で会食をする。緊急事態宣言の真っ最中に、与党幹部は銀座のクラブで飲み、行っていたのに「行っていない」と嘘をつく。PCR検査をうけたくてもうけられない国民がいる状況で、自民党職員は一斉に検査する。症状があっても入院できない患者が東京で数千人、全国で数万人いる状況で、自民党の石原伸晃元幹事長は無症状で即日入院する。
石原氏のケースはご本人やご家族の気持ちを考えれば軽々に批判することはできませんが、一連の政治姿勢が「あんたたちは特別なのか」という意識を国民に持たせてしまったのは事実です。
会食、検査、入院……万事において政府与党は安全地帯に身を置く一方、国民は危険地帯に追い込まれているのではないか。そういう状況で、国民に対して上から「ああしろ、こうしろ」と指図することは間違っている。これでは何を呼びかけても空疎に響くしかない。
私も気を付けなければならないと感じたことがあります。私は退院後2週間、自宅で療養していました。
現在のルールでは退院後、社会復帰前にPCR検査をうけなくてもいいことになっているのですが、ある高名な大学の先生から「
もう一度検査をしたほうがいい。うちで私がやってあげよう」と勧められました。大変有難い提案だったのですが、「
これも特別扱いではないか。こういうことが積み重なると、だんだん国民の感覚からズレていって、最終的に自分の価値観や判断基準がブレる可能性があるな」と自省して、丁重に辞退しました。
しかし
アドバイスには従い、自転車で都内の新設された検査センターに行って、皆さんと一緒に行列に並んで検査をうけました。些細なことにすぎませんが、やはり国民と同じ立場に自分の身を置いて、国民の多くが何に不安を感じているのか、どこで苦労しているのかということを身を以て感じなければ、適切な政治判断はできないのではないかと思っています。
―― ただでさえ自民党政権では権力に近い人間が特別扱いをうけたと疑われるケースが頻出していました。
小川 自民党議員の中には、あらゆる業界に影響力を行使している貴族、豪族のような一族の世襲議員が多くいます。彼らは特権階級の出身であり、特権階級の利害を代表しているわけですよね。そういう政治家が一般国民、庶民の利害を代表することは構造的にできません。だから今回のような危機的状況でも、彼らは特別な安全地帯にいて、国民と利害を共有していないという実態が如実に表れるわけでしょう。彼らは一般国民と運命を共にしていない。一般国民と運命共同体ではない。
極端に言えば、
戦争になっても自分は戦場には行かない人たちが国家の舵取りを担っている。今回のコロナ危機、対コロナ戦争でも国民に対して「お前たちは戦場へ行け」とは言うが、自分の身は危険に晒さない人たちが陣頭指揮を執っているのが実態ではないかと思います。
小川淳也議員。衆議院インターネット中継より
―― 与野党を問わず、政治家は口では「国民を救う」と言っていますが、その言葉にどれだけ魂がこもっているのか。国民の多くは懐疑的です。
小川 先日、ニュージーランドに在住する日本人からメッセージをいただいて、「アーダーン首相の言葉や政策を聞いていると、『自分はこんな素晴らしい国に住むことができているのか』と涙が出ます」と伝えてくれました。私は感動するやら情けないやら、複雑な気持ちになりました。言葉は姿勢の表れ、もっと言えば魂の表れです。だから政治家の言葉が問われるとは、政治家の魂が問われる、政治家が本当に国民に伝えるべきものを持っているのかを問われるということです。そもそも持っていないものは伝えようにも伝えようがない。
―― 菅総理の言葉は特に空虚だと言われています。
小川 菅総理のメッセージからは、何が伝わってくるのか。コロナ感染第三波は、11月上旬には第二波を超えました。この時点で専門家はGOTO停止の検討を求めましたが、菅政権は無視しました。その結果、第三波は感染拡大の一途をたどり、GOTO停止を決定した12月中旬には第二波の2倍、緊急事態宣言を発令した1月上旬には4倍になってしまった。
では、菅政権は感染者が急増したからGOTOをやめたのか。菅首相は12月11日の時点ですら、GOTO停止は「まだ考えていない」と言っていました。ところが、3日後の14日には一転してGOTO停止を決めました。なぜか。13日に発表された新聞社の世論調査で支持率が急落したからです。裏返せば、それさえなければ第三波の感染が第二波の2倍になろうが4倍になろうが、GOTOをやめなかった可能性がある。
菅政権が守りたいものは何なのか。国民の命、健康、暮らしなのか。それとも政権の支持率、すなわち権力の座なのか。答えは後者だとしか思えない。菅政権は「国民のために働く」と言いますが、その言葉の空しさから国民が感じ取っているのは、「
彼らが守りたいのは国民ではなく自分たちの立場や利益にすぎない」ということではないかと思います。
―― その言葉は、そのまま野党にも跳ね返ります。
小川 その通りです。私も
自民党を悪く言えば、自分の責任が果たせるとは思っていません。野党は民主党政権の失敗、その後の内輪揉めから国民の信頼を失ったままです。だから政府与党がこれだけ堕落しても、受け皿になることができていない。
野党は安倍・菅政権の対抗勢力です。本来ならば、あれだけ政治を私物化した政権に対して、野党は無欲無私の政治姿勢を貫くべきです。しかし、国民からは「与党も野党も大差ない。結局、どいつもこいつも私利私欲に塗れて国民のためではなく自分のために政治をやっているんだ」と見られているのが現状ではないかと思います。
この状況で、野党は国民に何を伝えるのか、国民に伝えるべきものを持っているのか。それを伝える時、字面や言葉尻ではなく、全身の毛穴から発せられるような迫力や真摯さがあるのか。我々野党も国民から厳しく問われていることを痛切に自覚した上で、これまでの自らの在りようを猛烈に自省しなければなりません。
(2月1日 聞き手・構成 杉原悠人)
おがわじゅんや●自治・総務官僚を経て民主党→民進党→希望の党→無所属を経て立憲民主党所属の衆議院議員。切れ味の鋭い国会質疑に定評がある。著書に『
日本改革原案 2050年 成熟国家への道』(光文社)など
<記事提供/
月刊日本2020年3月号>