この表情フィードバック仮説について、笑顔以外で検証したのが
Richesinら(2020)です。
実験参加者をランダムに二つの条件にわけます。スポーツ選手が気合を入れた瞬間の顔を見せ、その表情をマネしてもらう条件と表情について何の指示も与えない条件です。それぞれの条件の実験参加者に二つのタスクをしてもらいます。
一つのタスクでは、摂氏4~6度の冷水に手首まで入れてもらい、出来るだけ耐えてもらいます。身体ストレスレベルを測る目的のタスクです。もう一つのタスクでは、実験用のパズルを解いてもらいます。認知力を測る目的のタスクです。
タスク実行中の実験参加者の表情、心拍数、皮膚コンダクタンス反応(発汗を測定する) を計測します。
実験の結果、身体ストレスレベルを測るタスクでは、条件間で実験参加者の成績に違いがないことがわかりました。一方、認知力を測るタスクでは、表情について何の指示も与えない条件の実験参加者に比べ、気合の入ったスポーツ選手の表情をマネしてもらう条件の実験参加者の方が、成績が良くなることがわかりました。この差は最大で19.6%となりました。
身体ストレスレベルのタスクでは、特定の指示を与えていない実験参加者も自然に気合を入れた表情になってしまい、条件間の違いがなくなってしまったことが実験結果に影響を及ぼしたのではないかと考えられています。身体的苦痛に対して、私たちは自動的に頑張る表情が生じ、頑張れるように身体を整えるようです。
集中力をチャージしたいときは、眉間にしわをつくり、唇を一文字に結ぶ
一方、認知力のタスクでは、気合の入ったスポーツ選手の表情をマネしてもらう条件の参加者の皮膚コンダクタンス反応は低下し、この頑張る表情は、集中力を高め、作業記憶を促進する可能性があると考察されています。
頭を使う作業を行うとき、意識を集中することは言うまでもありません。この集中力導入が表情を通じて出来る、ということです。集中力を高める呼吸法などと併用してみる価値があると思います。
ところで、スポーツ選手が気合を入れた瞬間の顔とは具体的にどんな表情でしょうか?実はこの研究、その表情を具体的に書いてくれていません。しかし、これまでの研究から気合を入れた瞬間の顔、つまり、集中しているときの顔とは、「眉間にしわをつくる」「唇を一文字に結ぶ」動きだということがわかっています。
よくミスする部下・同僚・上司に、書類の最終チェックのときに、この表情をして取り組んでもらいましょう。ご自身がよくミスをしてしまう、頑張りたいけど頑張れないー書類チェックや就業中の最後の業務だけでなく、長時間の資格試験の最後の問題回答中などーそんなとき、この表情をして、頑張れる力を身体に注入してみて下さい。
ちなみに私自身は、学生時代―この論文が発表れれるはるか前ですがーTOEIC(英語の試験の一種)の問題回答の終盤、自然にこの顔になっていたことが思い出されます。最近では、カフェで文献などを読んでいる最中、周りがガヤガヤして集中できないとき、眉間にしわを寄せ、集中力を引き上げています。結構、使えます。
<文/清水建二>
参考文献
Richesin MT, Oliver MD, Baldwin DR, Wicks LAM. Game Face expressions and performance on competitive tasks. Stress and Health. 2020; 1–6.