ロンドン再封鎖5週目。長い停滞が動き始めた<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ワクチン一回接種済みカード

これが「(ワクチン接種を)一回目済ましたよカード」。このほかに自分のワクチンの説明書を貰います。ツレはアストラ・ゼネカ。国産。この5月までに10億回分のワクチン製造が予定されてます

約1年振りのチューブに潜って

 2月7日、予定通りツレがワクチン接種を受けてきました。積もるほどではない粉雪が朝からずっと降り続く寒い日。夕方の4時、いってらっしゃーいと送り出しました。現場での混雑を避けるためと、いまは近所のカフェで時間を潰すってことができないので、わたしは同伴しませんでした。というかツレに来ちゃダメといわれた(笑)。  もっとも周りの接種済みの人たちから事情聴取はしていたのでさほどの不安はありません。唯一、ちょっとだけ動揺したのは指定された場所が地下鉄を利用しないと〝ちゃっ〟と辿りつけないところだったこと。わたしたちは地上線やバスこそ使っていましたが、昨年3月に始まった最初のロックダウン以降頑なに地下鉄を避けていたからです。
ロンドンのチューブ(地下鉄)

通勤時間はそれなりに混むようだが、80年代後半から90年代頭にかけての不景気に荒廃したロンドンの地下鉄がちょうどこんな具合だった。乗客の俯いた暗い顔もまた似ている。

 こちらのそれは「チューブ」と呼ばれています。その形状が、くねくね曲がったホースみたいな筒状だからです。夏になると活動を始めるグループだからではありません。夏になると毎年熱中症でお年寄りが必ず何人かお亡くなりになるくらい、みっちみちに密ではありますが。そして換気措置がマジ皆無。  想像したよりずっと早くに帰宅したツレが申しますには10ヶ月ぶりの地下鉄にはやはり緊張したものの、ラッシュアワー前ではあったし郊外へ向かうダイレクションだったから空いていたのでリラックスできたとのこと。こちらはここ10年都心の人口増加で、そりゃあ日本に比べたらゆるいもんですがかなり混むようになっていたんですよ。自分の車両には自分を含めてマスク装着で3人だけだったそう。

5分のワクチン接種

 最寄駅から歩いて5分足らず、会場は健康センター的な施設。どうせだったらTVで報道されてた映画館とか教会など突拍子のないロケーションだったらよかったのにと思いつつ、外に設置された大型天蓋つきテント(marky。Gazeboかもしれないが)でレジスター。個人情報の照会といくつかの質問。  照会といっても何一つ身分証明はいらず。住所氏名生年月日のような基礎情報のみ。質問も「すでにコロナに罹ったことがあるか?」「いま一般的に言われているような自覚症状はあるか?」「外出の頻度は?」みたいなもので当たり障りなく5分で済んだみたい。  ほとんど待たされることもなく、5分後には接種の椅子に座っていたそうです。二言三言雑談を交わし、さっと打たれ、「一回目済ましたよカード」を渡され(これは重要。なくすと次が受けらんない)、さっと追い出され、はいそれまでよ。友人情報では副作用のアレルギー反応が出たときのために10分ほど待機させられるって話でしたが、それはあまりに発生数が少ないので無用となった模様。  ちなみに注射を打ってくれたのは普通に中年の女性ナース。メディカルセンターの職員さんだった可能性もありますが。英国では一般人のボランティアや軍隊所属兵士が志願で特訓を受けて接種を行っています。自分のときは兵隊さんだったらいいな。ちょっと萌えるシチュエーションですよね。  とまれツレは空っぽの地下鉄に揺られてUターン。まるで狐に摘ままれたような感じだったとさ。とってんからりのぴー。  時間帯のせいもあるかもしれませんが、なにしろ1分当たり全国で140人のスピードで接種されているといいますから驚くほどではないのかも。これは1月17日のニュース(参照:「BBC」)ですから現在はもっと早まっているはず。この日は通常尤も接種数が少ない土曜日で、それでも27万8988人。10日には45万810人にまで昇りました(参照:政府広報発表)。  地方在住の年子の妹さんと、その同い年の旦那さんから電話があってふたりも来週末に決まったとのこと。全国満遍なく進捗しているようでなにより。これまでの記録は1月30日の59万8389人。創世記 1:28、生めよ殖えよ地に満てよ(be fruitful、and multiply、and replenish the earth)の精神を感じます。  ところで「コロナワクチンの注射は痛い(痛くなる)」という噂が出回っているようですが、デマとはいわないけれど「お煎茶で治った!」とか「納豆菌でウィルスが死んだ!」なみの真実性だといって差し支えないと思います。うちのツレは毎年のインフル予防接種でもかなり痛みが後を引くので、それくらいには痛くなるでしょう。  しかしそれは体質の問題。コロナのワクチンだから痛いわけではない。曰く、普通のよりも注射針は長かったそうですが。これも恐怖が見せた幻想かもしれない。あ、でも、前述したようにプロでないひとたちによる接種はテクニック的に劣るため痛くなるケースは多いかもしれない……とは考えられます。  しかし長い時間滞っていた事態が動くと、ほんとうに胸の痞えがとれるような気分がいたします。待ち時間というのは人の精神を擦り減らします。コロナ禍は様々な問題をわたしたちの生活にもたらせましたが、その最たるものはこの【消耗】でしょう。悲劇の原因を辿るとそこに行きつくことが多い。
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武者小路千家からの「そこらへんにあるもの」
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