コロナ禍活かし「集団移住型シェアハウス」へ。“渋家”新代表が語る、新たな集団生活の形

お金と住人の問題で、危機に瀕する

 2016年の法人化以後も、渋家の全盛期は続いた。 「例えば、2018年には創立10周年イベントとして、渋谷109の屋上を借り切ってホームパーティーを実施。その後、パーティーに続くイベントとして『渋家文化祭』を企画しました。住人全員になにかモノを作ってもらい、渋家の中でギャラリーとして公開しました。もちろん、24時間お客さんに開放しているので、生活空間はほぼゼロだったそう(笑)。こうした出来事は伝説として語り継がれています」
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109で開催されたパーティーの様子

 しかし、そんな渋家の風向きが変わったのは2020年。まず問題になったのは人材の流出だった。 「この年、前代表を中心とした優秀なクリエイター数人が渋家を辞め、新しくクリエイターチームを作りました。そこで有力者が抜けてしまったのは、後から考えれば大きなダメージでしたね」  また、昨年南平台から初台へと拠点を移したが、その際の費用も大きな懸念事項だった。 「家を開放する仕組み上、どうしても物件が傷みやすく、南平台の物件を退去する時に多額の修繕費を請求されました。みんなで協力して費用ねん出を試みたのですが、すべてをまかなうことはできず、名義上の契約者がひとり借金を背負う形で泣く泣く退去することに。また、引っ越しのタイミングで優秀なクリエイターが退去してしまったことも痛手でした」
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引っ越しに多額の費用を要した4th渋家

 こうして住人が失われ、資金面でも苦しくなった渋家は、新たな住人を迎え入れることで再起を図ろうとした。 「ただ、新しく入った住人との関係性がうまく構築できず、お金の問題も相まってだんだんメンバーがギクシャクしていくようになりました。すると大家への家賃が払えるか微妙な状況にまで追い込まれ、そしてさらに仲が悪くなっていく悪循環に陥ってしまったんです」  こうした状況に加え、かつてのように著名人を輩出できなくなっていた渋家。前代表は「渋家」の看板に重圧を感じており、運営への気力を失っていったと上梨さんは分析する。

「コロナに負けない」という思いから“2拠点化”発想へ

 しかし、上梨さんは解散決定以前から渋家のあり方に疑問を持っていた。 「コロナ禍でイベントの開催に踏み切れなくなってしまい、オルタナティブスペースだったはずの渋家が普通のシェアハウスになっているという思いがありました。しかし、『ニセNF』というイベントに参加し、そこでコロナ禍でも自粛をしないという選択肢があるのだと気づいたんです」
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ニセNF開催時の様子

 「ニセNF」とは、延期が決定した京都大学の学園祭「京都大学11月祭」のパロディとして、2020年11月に京都で行われたイベントだ。学園祭がオンライン開催や中止に追い込まれるなか、小規模ながらあえてリアルの場で開催したことが特徴といえよう。野外会場で、かつ感染対策が講じられていたとはいえこの時期の開催には賛否の声もあるだろうが、大きな盛り上がりを見せ、参加者を楽しませるイベントだったことは間違いない。 「また、そこで渋家とのかかわりも深い方に出会い、実質的な渋家の消滅が決まりそうだと告げると『簡単に諦めて悔しくないのか。悔しいなら、お前が代表をやれ』と檄を飛ばされました。自分が先頭に立つことに葛藤はありましたが、考えていくうちに、これは自分にしかできないことだと思うようになったんです」  こうした葛藤のすえ、上梨さんが思いついたのは「渋家を“東京周遊組”と“全国周遊組”に分ける」という発想だった。 「渋家はオルタナティブスペースを掲げていますが、それでも一つの住居に腰を落ち着けると『土地』に縛られている感覚はありました。そう考えたとき、『じゃあ、色々な街を移り住んで土地を変えてみよう』という発想に至ったんです」  上梨さんと同じ志を持つ元渋家の住人がいたこともあり、2021年2月からは職場などさまざまな都合で東京を離れられない人たちの組織する「東京周遊組」と、全国を渡り歩く「全国周遊組」に分かれて活動していくそうだ。
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