陳腐過ぎる日本国憲法デマのオンパレード。『百田尚樹の日本国憲法』を読んでみた

百田尚樹の日本国憲法 (祥伝社新書)

『百田尚樹の日本国憲法』 (祥伝社新書)

 現在、我が国は、菅義偉政権に忍耐と貧乏を強いられる菅支配の下、今日本全体が貧窮状態に陥り、その痛みを軽減する為、日本凄い的な神話に郷愁を抱き、平然と中韓に対する排外主義を公に表現する国に成り果てていますが、そんな流れに逆行するべく、日本の保守の非合理性、瑕疵を打ち砕き、愛国神話の脱皮を目指す」今企画。今年も新年を迎えましたが、皆さんは如何お過ごしですか。  前回、門田隆将氏を紹介して今回は、第5回目。で、今日は毎回愛国的に歪な内容で、世間の好悪感情を刺激し、虎ノ門news等に出演しながら、日本の排外主義の先頭に立ち、八面六臂の活躍を続ける作家百田氏が先日刊行した本が、相当、高い評価を得ていると聞き、今日は其の本を、取り上げます。其の名も『百田尚樹の日本国憲法』(祥伝社新書)。

あまりの歴史的知識のなさにドン引き

 この本凄くて、発売と同時に何刷も版を重ねていて、Amazonでは賛美の嵐で、世間的にも高く評価されていると伝え聞き、その内容が非常に気になった私は、早速Amazonの感想を見て、その感想の量の多さに驚愕しました。百田氏の人生の中でも特に万感の思いを込めて発刊された今作は、既に約12万部を売り上げ、百田氏独自の鋭い語り口で、日本の戦後の「平和主義」を痛烈に批判する本になっているそう。  で、私も先日気になって読もうと思っていたのですが、余りに絶賛コメントが多いので、なかなか読む気になれず、つい昨日立ち読みしてみました。初めに言っておくと、私は護憲派です。なので百田氏とは見解の相違があるのですが、その護憲派の私が、百田氏の書いた護憲派の批判本を読んで感じたことを今日、書きます。  しばらく読み始めて、私はこの本の、あまりの酷い内容に立ち眩みが起きました。本の内容は、自然災害に対応するため憲法を改正して「緊急事態条項」を創設しよう的な内容ですが、私はそんな主張よりもこの本を読んだ時、この本の歴史知識の「底の浅さ」に、ドン引きしてしまいました。  一言で要約すると、便所の落書きの如き本だったのです。  では、この本の酷い主張の数々を、今日は、皆さんと一緒に詳細に検証して行きましょう。まず冒頭から前半、百田氏は憲法の条文「平和を愛する『諸国民』」への不信感を表明し、日本の平和ボケを痛烈に批判する所から始まります。以下抜粋。 “平和を愛する『白人様』の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。この前文のひどさが伝わりましたか? 要するに「日本人の平和は白人様次第」と言っているに等しいのです” (P21)  百田氏は、憲法の条文『白人様』の公正と信義を信頼する平和ボケに浸る護憲派を鋭く批判し、揶揄します。しかし、私は、この主張を見た後で、百田氏のツイートを見て笑いました。今までの散々護憲派を批判した百田氏が、日本の未来をドナルド・トランプに掛ける姿はまさに百田氏が批判した『白人様』の公正と信義を信頼して平和ボケした護憲派」そのものです。

百田氏の虚偽は芦田均の日記を見れば一目瞭然

 まずこの時点で私は新年初笑いをしたのですが、ここまではまだ「笑えるレベル」です。本を読み進めていくうちに、私は、この本の底抜けの無知と独断と偏見に満ちた百田氏の独善的な歴史解釈に気付き、だんだんと寒気を覚えるほど恐怖を感じました。  さらに百田氏は、(これもネット保守の方にありがちな)日本の戦後の憲法をGHQが書いた事への憤りを表明し、従来の「押しつけ論」を主張していきます。以下抜粋。 “日本国憲法は戦後の占領期にアメリカから押しつけられた憲法です” (同、P21)  この保守の一般的な「押し付け」論ですが、この主張は、根本的におかしいです。何故なら、そもそも憲法は支配者に「押し付ける」ものだからです(むしろ押付けは憲法に対する最大の賛辞です)。  しかも、こと憲法に関しては、国民に対して秘密主義だったのは、むしろ日本側のほうでした。  憲法制定時、明治憲法の焼き直しを日本側が提示してきた際に、アメリカはGHQ草案を提示しましたが、その時、日本側はそれを拒絶し、民政局局長のホイットニーが2つの草案を日本国民に提示しようと提案します。が、日本側がそれも拒否しているのです(参照:『9条誕生』(塩田純/岩波書店 P134)。  そのときの様子は、戦後、衆議院帝国憲法改正案委員会の委員長を務めた芦田均の日記に残されています。 “若しアメリカ案が発表されたならば、我が国の新聞は必ずや其れに追随して賛成するであろう。其の際に現内閣が責任はとれぬと称して辞職すれば、米国案を承諾する連中が出てくるに違いない。そして来るべき総選挙の結果にも大影響を与えることは頗る懸念すべきである”(『芦田均日記』岩波書店 P77)  このように、アメリカより日本のほうが逆に「国民の意思を無視」しています。
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「GHQによる日本人洗脳説」を今だに主張
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