テレビを設置すると、NHKを見ていなくても受信料を払わなければならない
受信料を払わない、払いたくないという方の理由は、大きく2つあるだろう。1つは
「そもそもNHKの放送なんて見ないから払う必要ない」という方。もう1つは
「NHKの放送内容が偏っていて納得できないから払わない」という方。この場合の「偏っている」も2通りある。
「政権寄りに偏っている」という方と、
「反体制(あるいは反日)に偏っている」という方と。正反対だ。
法律上は、放送法によって
「テレビを設置するとNHKと受信契約を結ばなければならない」とされていて、その受信契約に基づいてNHKは受信料を集めている。
「テレビを置いているかどうか」だから、NHKの番組を見ているかどうかに関係なく、テレビがある世帯はすべてNHKと受信契約を結び受信料を払わなければならない。法的には。
しかしこんな法律論を振りかざされたら、普通の人の感覚としては納得できないだろう。料金とは何らかの商品(サービス)への対価として支払うものだというのが一般社会の肌感覚だ。NHKの場合、商品とは番組・放送内容ということになる。
番組を見てもいない人に、あるいはNHKの報道はけしからんと思っている人に、「受信料を払ってください」というのは無理がある。
NHKは公共放送として公平中立を重んじる。だが公平中立であろうとすると、反対の立場をとる双方に納得してもらえずに批判を受けるということもよく起きる。「偏っている」として、正反対の立場から批判されるのはその典型だ。
NHKはこれまで個々のニュースや番組というより、放送全体として多様な見方を示すという方法でバランスを取ろうとしてきたと思う。
だが近年、そのバランス感覚が失われてきているのではないかと危惧している。
受信料の集め方についても、「強引だ」という批判をよく聞く。
実際に受信料を集めているのは委託契約の方だから、数字を上げようとして強引になりがちだという批判だ。逆に、
NHKの職員は委託の人任せで、自分たちは受信料を集める努力をしないという批判も聞く。
実際には、採用後や管理職になった時など、節目節目で全職員に「営業研修」が課される。私が管理職になったのは大阪府警キャップになった2003(平成15)年6月の異動で、その後、8月に営業研修が行われた。
大阪府堺市内の府営住宅が多い住宅地で、受信料を契約していない住居のリストを渡され、一軒一軒回って、受信料制度についてのご説明と契約へのご理解をお願いした。30年以上前、初任地の山口に赴任した際も3日間、営業担当職員とともに受信料徴収の現場を回った。
2004(平成16)年、NHKのプロデューサーによる制作費の不正支出が発覚したのをきっかけに、さまざまな不祥事が明るみに出た。視聴者からの厳しい批判を招き、受信料の支払い拒否が続出。NHKの経営を揺るがした。そして、当時の海老沢勝二会長が引責辞任する事態となった。
この時、全管理職に「お詫び行脚」の指令が出た。これまで受信料を払っていただいてきた方が支払いを拒否するという事態は、従前から不払いだった方の支払い拒否とは性質が異なる。
NHKのシンパ、お得意様だったお客様が怒って「もう買わない(支払わない)」と言い出したことを意味する。
このことは、組織として重く受け止めざるをえない。だから全管理職がそれぞれ個別に謝罪と説明をして回るようにという指示だった。
私もその一員としてお詫びに回り、厳しい批判の声を受け止めた。当初は「なんで他人の不祥事の後始末を……」と思ったが、実際にやってみて、ああいう取り組みをみんなでするのは受信料の重みを感じる上でいいことだと感じた。全管理職だけでなく、全職員でしてもよかったように思う。