吉村洋文・大阪府知事に大戸川ダムに関する意見書を出した今本博健・京都大学名誉教授(左端)。西日本豪雨災害の現場も脱ダム派である嘉田由紀子・前滋賀県知事(右端・現参院議員)とともに視察した
いったん葬り去られたはずの大戸川ダムが復活寸前となったのを見て今本氏は、最後の“砦”とみた吉村知事に意見書を送り、「大戸川ダムについての判断をされる前に、知事立ち会いのもとに意見の異なる専門家同士が議論する機会を設けていただきたい」と提案を行った。
そして「槇尾川ダム」(大阪府和泉市)の中止を決断した時の橋下知事の対応を、次のように紹介した。
「橋下元知事は槇尾川ダムの判断をされる際に、ダムを容認する元建設省河川局長の竹村公太郎氏および元大阪府副知事の金盛弥氏と、批判する元淀川河川事務所長の宮本博司氏および私との4名で議論する機会を設けられました。専門家同士の議論を聞いたうえで、大戸川ダムについての判断をされることを切望します」
ダム推進派と脱ダム派(批判派)との議論を聞いてから最終判断をしてほしいと訴えたのだが、その理由も今本氏は意見書の冒頭で説明していた。それは、国交省が以下のような“デッチ上げ3段論法”で「凍結」とは正反対の「ダムが必要」という結論に誘導し、それを府河川整備審議会が追認したというのだ。
1)まず、堤防の高さより4mも低い位置を「計画高水位」に設定。
2)この水位を少しでも超えてしまうと、堤防決壊(破堤)で「4800haが浸水、8.9兆円の被害」の大水害となる恐れがあると指摘。
3)ダムがないと計画高水位を17cm超えるので、水位を下げるために大戸川ダム建設が必要との結論に。
ここで2番目の「計画高水位を超えれば破堤して氾濫」という国交省の基準こそ、ダムの必要性をデッチ上げるための詐欺的手法なのだ。橋下府政時代の2008年、国交省近畿地方整備局設置の「淀川水系流域委員会」が「大戸川ダム凍結」の結論を出したのは、「堤防高は余裕高と余盛により計画高水位より約4m高くなっていて、計画高水位を最大17㎝超えても実害はない」というのが理由だった。
利権にむらがる政治家・国交官僚・建設業者のトライアングル
大阪都構想否決によって政界引退するまで、維新の顔だった橋下徹・元大阪府知事
ダム建設ありきの国交省は「計画高水位を超えても破堤しないようにする技術は確立されていない」と主張しているが、今本氏は「事実誤認です。計画高水位どころか(さらに高い堤防を)越水しても耐える技術はすでにあります。例えば、鋼矢板(こうやいた)を堤防天端の両肩から打設すれば越水にも耐えます」と論破していた。
完成まで莫大な予算と年月を要する「ダム建設」よりも、安価で工期も短い「堤防強化」で十分ということだ。ところが国交官僚は、安価で即効性のある方法を選ばずに、莫大な費用と年数がかかる方法を進めているのだ。
「国交官僚がダム建設ありきなのは、組織維持のための予算確保と、工事受注の建設業界に将来天下りをするため。『国民の生命・財産を守る』と言いながら、血税を食い物にする“寄生虫”のような存在です。これに建設業界から献金や票をもらう自民党議員が癒着して、ダムをめぐる政・官・業のトライアングルを作っている」(永田町ウォッチャー)
税金のムダ撲滅が“売り”である維新の若きリーダー・吉村知事が自民党土建政治を追認するのか。それとも2008年当時の橋下元知事と同じように、大戸川ダム計画に「待った」をかけるのか。今後の吉村知事の言動が注目される。
<文・写真/横田一>