政治報道の独特な言葉遣いを読み解く「#政治部日本語大辞典」

国会

北村 / PIXTA(ピクスタ)

政治報道の独特な言葉遣いに注目

#政治部日本語大辞典」というサイトを少しずつ構築している。政治報道の独特な言葉遣いに注目し、その含意を読み解こうという試みだ。  筆者は昨年11月から12月にかけて、11回にわたり短期集中連載「政治と報道」を執筆し、「野党は反発」などの言葉遣いに問題意識をもってきたのだが、問題意識を共有する友弘克幸氏が1月22日にこうツイートされたのがきっかけだ。 “時間ができたら、「政治部の使う日本語大辞典」とか作ってみたい。 「安全運転」 「反発」 ほか、いろいろありそう。  この動きに呼応して、翌日に筆者が「#政治部日本語大辞典」とハッシュタグを作ってnoteに「『#政治部日本語大辞典』 ~政治報道を読み解くために~」というサイトを開設した。順次更新しつつ、項目や解説、用例などを追加しているところだ。  今のところ、暫定だが48の項目を設定してみた。「安全運転」「かみ合わない」「かわす」「疑問視する声」「淡々と」「挑発」「反発」「批判が予想される」などだ。

誰にとっての「安全運転」?

 例えば「安全運転」については、こうだ。この用語解説は、友弘氏が暫定案として作成されたものだ。用例は筆者が選んだ。 1. 【安全運転】(あんぜんうんてん) <用語解説> 総理大臣などの国会での演説や答弁を、自動車運転になぞらえて表現したもの。「安全」とは政権維持にマイナスとなる失言などが含まれていないことを意味しているに過ぎず、多くの場合、実際は官僚が用意した原稿を棒読みすることを好意的に表現するために用いられる。 <用例> [菅首相、安全運転で代表質問乗り切る 野党は週明け予算委で攻勢](産経新聞、2021年1月22日) 「立憲民主党や共産党などの野党は菅義偉首相のこれまでの新型コロナウイルス対策や「政治とカネ」の問題を責め立てたが、首相は安全運転を徹底し、無難な答弁で乗り切った」  皆さんはどう思われるだろう。菅首相の答弁は、「安全運転」という言葉で表現されるべきものなのだろうか。  いったい、誰にとっての「安全」なのか。首相が「安全運転」を徹底していると言うのなら、国民は安心していられるかのように思ってしまいかねないが、ここでいう「安全」とは、政権が揺らがないことを指している。失言によって世論の批判が集まったり、野党に譲歩を余儀なくされたりしないように、野党の質疑にまともに答えずに、官僚に用意させた答弁書をそのまま読み上げる、そのような答弁姿勢が「安全運転」と言い表され、そのような答弁が「無難な」答弁と形容されているのだ。  自民党の広報誌ならともかく、客観報道を心掛けているはずの大手新聞が、このような政権寄りの言葉遣いで国会審議を報じる。それは、おかしくないだろうか。  「いや、産経新聞だし…」と思われる方もいるだろう。では、朝日新聞ならどうだろう。
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野党は「反発」、首相は「反論」?
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