コロナ禍でのバーチャル同人誌即売会「NEOKET」に参加してみた

トラブルやその復旧

 NEOKET は、今回初のイベントということで、運営は大変そうだった。前日までクライアントソフトのバージョンアップをしていたのもそうだが、当日にもトラブルがちょくちょく起きて、リアルタイムで対応していた。  まずは、音声チャットが上手く動作しなかった。音が出たり、出なかったりが断続的に起きてアナウンスが流れていた。そのため、テキストのチャット中心で、来場者とやり取りをおこなった。  またアクセス過多で、途中でサーバーの増強がおこなわれた。ローディングの重さ改善のために、サーバーの更新もおこなわれた。チケットサイトが接続不安定になり、そちらのサーバー増強も実施された。  そうしたトラブルはあったものの致命的なエラーはなく、イベント自体は盛況のうちに進んだ。私も、サークルで売り子をする傍ら、全てのブースを回り、見本誌を立ち読みしたり、本を購入したりした。  会場の人数としては、常時700~800人程度がいた。現実の同人誌即売会では、「盛況だった小規模イベント」と言える人数だ。  イベント終了後に、自分のサークルの同人誌の売れた数を集計してみた。現実の即売会なら、参加費と交通費でトントンという具合だった。小規模イベントでは、赤字のことの方が多いので、人数だけでなく売り上げ面でも、「盛況だった小規模イベント」という感想を持った。

VR空間イベントの可能性

 今回、VR空間での同人誌即売会に参加して「アリだな」という感想を持った。ブースで待っていて、来場者が来て、という一連の流れが、バーチャルでも楽しかった。バーチャル空間なので、味気ないかなと思っていたが、普通に接客している気になった。人が集まってくると、思った以上に気持ちが高揚した。  今回の NEOKET には、購入した本を手に持って歩く機能があった。イベント開始直後、私のブースで同人誌を購入した人が、その本を手に持って歩き始めた時には、素直に嬉しかった。画面内の出来事とはいえ、こうしたちょっとした演出が、現実の体験の記憶を呼び起こしてくれるのだと思った。  出展や参加という意味でも、VR空間はなかなかよかった。往復2時間以上かけて現地に行く必要がない。また出展者として、ブースを設営する必要もない。開催期間中は、画面をちょくちょく確認しながら、食事を取ったり、お菓子を食べたりすることもできる。現実の会場では難しい、コーヒーを淹れて楽しむことだって可能だ。  仮想空間でサークルを回って、販売されているものを見るというのも、歩き疲れることがなくてよい。また、今回ありがたかったのは、サークルのブースから少し離れたところからでも、見本誌を読むことができたことだ。  現実の同人誌即売会では、1ブースの横幅がだいたい90cmぐらいになる。そのため、自分のブースの前には、2人ぐらいしかまともに立つことができない。そのため、見本誌を読める人は、2~3人が限界だ。人気サークルの前に多数の人が集まっていても、簡単に見本誌を読むことができるのは、ありがたかった。  VR空間での同人誌即売会は、思ったより失われるものが少なくて、メリットが多いと感じた。ただ、どうしても足りないと思った点もある。  同イベントでは、テキストチャットは、サークル島全てのものを読むことができた(別途、プライベートでの会話もできる)。イベントの終了間際に流れてきたテキストチャットを見て、思わず頷いてしまったことがある。 「打ち上げができないのが寂しいよね。今度、このイベントがあったら、終わったあとのオンライン飲み会のセッティングをしておこうね」  そういった内容の文章だった。  イベント終了後の、打ち上げの飲み会。イベントに参加するたびに、友人たちでおこなっていたリアルな楽しみ。  コロナによる、その喪失については、なかなか埋め合わせることができないなと感じた。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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