エグすぎる格差社会を食べ残しで象徴する映画『プラットフォーム』、その真の問題とは?

連帯感よりも効果的なのは?

 その後、主人公の青年の新たな同居人となった人物は、下の階層にいる人間に「取り分けたぶんだけ食べて、次の人にも同じことを伝えて」と言う。だが、幾度となく同じことを言っても、全く聞き入れてはもらえない。  ところが、青年が「言う通りにしないと食べ残しにクソをするぞ」と脅すと、あっさりと聞き入れてもらえた。彼は「(脅しは)連帯感よりも効果的だ。だが上は耳を貸さない。クソは上むきにはできないからな」とも口にする。  これも、格差社会における1つの真理だろう。立場が下の者に、与えられているものに対しての脅迫をすれば、聞き入れられる。だが、上にはそれは全く通用しない。全ての人間が公平になるための連帯感(というキレイゴト)が、全く通用しないという事実をはっきりと突きつけられるというのも残酷だ。

変化は決して自然には起こらない

 主人公の青年は「変化は決して自然には起こらない」とも語っている。それは、言うまでもなくこの格差社会の構造を指しての言葉だろう。何となく与えられているものを食べ、生き延びようとしているだけでは、社会の変化(変革)は起こせないと明言しているのである。
©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE

 では、具体的にどのように変革を起こすのか……については、実際に観てほしいので、ここでは書かないでおこう。この時にパートナーとなる人物が、神を信仰し、また人種差別を受けてきた黒人の青年であるということが、また象徴的だ。信仰や人種への誇りを肯定しつつも、やはり社会の変革は「誰も思いもしなかった行動」そのものによってもたらされるかもしれないということも、この映画は教えてくれているようだった。  それくらいに終盤の青年たちの行動は型破りで、また他の人間からすれば「愚か」とも言い捨ててしまえるようなことでもあった。彼がこの場所に1つだけ持ち込んだ本が、「ドン・キホーテ」という「自らを歴戦の騎士だと思い込む物語」だったのは、「この場所に変革を起こすような英雄になんて俺がなれるのか?そう思いこんでいるだけじゃないのか?」という、自己批評性の顕れなのかもしれない。  そして、彼らの行動が本当に愚かであったか、または正しかったのか……についても、ぜひ観届けて欲しい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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