ここまで書くと本邦はお先真っ暗なのかと思われますが、明るい点もあります。筆者がたいへんに恐れていたのは、クリスマス、年末年始の巨大Spikeが通過したあと、Baselineが50ppmに留まり、そのまま等比級数的増加を示すことでした。
実際には、Spikeの通過と共にBaselineは、30ppm程度に下がり、12月上旬と連続した等差級数的増加に戻っています。最悪の場合、
前回指摘した非常に悪い結果としての3月頃の謎々効果(Factor Xと呼称する人も居る) の消尽と南米水準への仲間入りもあり得たのですが、現状ではそうなる日が半年以上先に繰り延べとなりました。
エピデミック対策でまず目指すのは時間稼ぎであり、その間に態勢を整えエピデミックを収束に持ち込む訳ですが、今回本邦は半年間のボーナタイムスを得た可能性があります。またIHME(保健指標評価研究所)は、本邦の季節性第3波エピデミックSurgeは、2月半ばが峠でありその後は収束に向かうと予測しています*。
〈*但し、ワクチン接種と変異株未侵入が前提であり本邦では既にシナリオが変異株侵入・市中感染中に変更される可能性が高い。また本邦ではワクチン接種開始の目処は立っていない〉
IHMEによる日本における真の日毎新規感染者数の推移予測(2021/01/28更新):赤破線=最悪ケースはワクチンが南ア変異株に効かない場合で、対策現状維持
実際には本邦ではワクチン優先接種の目処すら立っておらず、英国変異株の市中感染が把握不能で進行中である。このグラフは、「真の日毎新規感染者数」の推定値であって、検査により発見された新規感染者数ではない/出典:IHME
従って筆者は、Baselineが恐ろしく高い状態になるとは言え、5月連休明け頃には昨年11月水準で一旦事態は落ち着くのではないかという楽観的な見込みも持っています。
一方で、底の抜けた桶の様なスカスカ空港検疫のために11月には英国変異株が本邦国内に侵入し、検査抑制も加わって既に追跡不能の市中感染が関東を中心に始まっています。この英国変異株は極めて強力な感染力を持つため、英国のティア3ロックダウン(学校継続など緩いロックダウン)を11月末に粉砕し、制御不能のエピデミックSurgeを起こし、今もボリス・ジョンソン英首相を連日、半泣きにさせています。そして、現状でワクチンとモノクローナル抗体の効果が無い、効果を減ずる南ア変異株*の発見国の一つが本邦です。
〈*南ア変異株は感染性と致命性の双方が高く、しかもスパイクタンパク質を標的としたワクチンとモノクローナル抗体の効果がなくなる・減ずる変異株である。mRNAワクチンやモノクローナル抗体などは分子デザインによって対応が比較的早くできるが、時間を要する治験で安全性と有効性を確認しなければ実用化出来ない〉
この様に、惨憺たる状態になりながらも5月には一旦落ち着くか、それとも英国の二の舞となるか、煉獄と地獄の様な選択肢ではありますが、現時点では情報の透明性が著しく低いこともあり、全く読めません。おそらく2月後半になれば先はある程度読めるのではないかと筆者は考えます。
少なくとも筆者が恐れた最悪の事態は、今は避けられています。
さて本稿は、前節までで終わりだったのですが、校閲中に本邦統計に明るい動きが見えてきました。そこで記事が巨大化しますが、本節を追記します。
日本における日毎新規感染者数の推移(人 線形Raw DATA)2020/09/01-2021/01/28/出典:OWID
本邦における日毎新規感染者数の全国統計が、1/29,1/30発表分で連続して下がっており、これらはそれぞれ1/28,1/29検査日に相当します。それぞれ木曜、金曜と平日ですので、本来なら漸増か横ばいとなる筈でした。これらが来週も継続するのであれば昨年12月中旬のSpike 1(ボーナス、忘年会集中起因)が到来する前の状態に戻ります。
菅緊急事態宣言の移動傾向への効果はありませんので、これは外食時短の効果である可能性が極めて高いと筆者は考えています。
東京における移動傾向の推移:12/29に大きく下げて以降、ゆっくり漸増している。菅緊急事態宣言の効果は全く見られない/出典:Apple
現時点ではSpike3(年末年始起因)による過度の下方バイアスで使い物にならない実効再生産数ですが、来週週末からSpikeの影響が消えますので、興味深い結果を出すと思います。
BarとKaraokeは最悪のスーパースプレッダなので止めてくれとアンソニー・ファウチ博士が訴えたのが昨年4月末から5月、屋内営業のレストランもスーパースプレッダなので営業を避けて欲しいとアンソニー・ファウチ博士が訴えたのが昨年5月から6月でした。一方で外食産業は、第三次産業の王様と言うべき巨大産業です。そしてその多くは零細企業で占められており、経済支援がなければ営業制限で吹き飛んでしまいます。
その為過去9ヶ月、各国政府は、外食産業の維持とエピデミック対策にたいへんに苦心し、結果として屋内営業のレストランは営業制限ないし営業停止して最後はお金で直接補償するしかないという結論に至りつつあります。
本邦は、世界に半年以上遅れながら今回貴重な経験を得たのではないでしょうか。それを活かすためには、事実を事実として見続けることが必須です。これが本邦の最も不得手とすることです。
今回はここまでとし、次回から日本、韓国、台湾について最新情報を加えつつ、より詳しく論じて行くことを考えています。
◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ37:第三波エピデミック定点観測(2)
<文/牧田寛>