急な時短要請にメディアからのバッシング……。追い込まれた飲食店は「お客さんだけが支え」

人の消えた繁華街

※写真はイメージです。 photo by まちゃー / PIXTA(ピクスタ)

「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」といった言葉は、もはや昔。日本社会、そして世界全体のコロナウイルスとの戦いが続くなか、終わりの見えない時短要請や緊急事態宣言に振り回され、飲食店は苦境に立たされている。

従業員がいたらやっていけない

 コロナウイルスが猛威を振るい始めてから一年以上が経つが、今日のような状況を予期していた人はあまりいなかっただろう。高円寺の「スポーツ居酒屋KITEN!」店主の河野 創氏もその一人だ。 「危機感もなかったし、他人事でしたよね。ウイルスが蔓延してこんな事態になるなんて、SFかと。『本の読みすぎや』ぐらいに思ってましたよ」  KITEN!はサッカー野球などのスポーツ中継を中心とした業態だが、プロ野球の開幕延期やJリーグの中断、そして東京都からの時短要請によって、それまでの日常は一変した。 「東京都からの時短要請で、いよいよ店にも影響が出始めました。20時閉店ということは、野球だと5回の裏ぐらいですからね。それまで入っていた予約や、仕入れた食材をどうしようかと焦りました。昨年の4月11日から休業していたのですが、結局5月いっぱいまで閉めることになりました。  協力金など見返りがあったので、国や自治体の指示には全部従っていますが、従業員がいなかったからなんとかやっていけるものの、そうじゃなかったら厳しいですよ」 「お店を潰すことは考えなかった」という河野氏は、昨年いっぱい使えるクーポン券を販売するなど、なんとか存続するために奔放したという。 「おかげさまでクーポン券は100万円分ほど売れました。ただ、それでも売り上げは減りましたよね。7〜8月にガクンと下がったので、メニューを増やしたり、客単価を上げるため努力しました」

向かうべき「ゴール」を見せてほしい

 とはいえ、あくまでKITEN!は「スポーツ居酒屋」。店を存続するために手は尽くしているが、その結果まるで違うお店になってしまっては本末転倒だ。 「今年も1月、2月に入っていたイベントは全部できなくなってしまいました。でも、テイクアウト専門店になるわけにはいかないと思っています。時短要請をするということは協力金が出るということなので、今のところ金銭的には心配していません。一人でお店をやっているので。ただ、サラリーマン相手のお店や、従業員の多いところはそうはいかないですよね」 「自粛警察」や「闇営業」といった言葉がついて回るようになった飲食業界についても、想いは複雑だ。 「時短要請も協力金がもらえるので20時には閉めていますが、お金をもらわないので協力しないという選択肢もあるとは思うんです。実際、外から見ると暗くても、入口に近づいてよく見ると開いている……なんて店もありますよね。難しい問題だと思います。街を歩いていたり、飲食店向けの物件サイトを見ていても、『あそこも閉店しちゃったのか』と、目にしますしね」  世間からのバッシングを受け、経営を続けるための体力も低下し、ついには閉店……。「闇営業」と名づけられるものの、協力金をもらってない以上は閉める「義務」はない。厳しい現実に、同業者としては同情する気持ちもあるというわけだ。 「行政に対しても、お金の面では不満はありません。あと出しジャンケンで批判するのは簡単ですが、コロナで一番しんどいのは終わりが見えない敵が見えないということですから。マスコミの報道にしても、変なことをしてる人叩きばかりでうんざりします。火事の現場で、『誰が火をつけたか』なんて探しませんよね? まずは火を消して、そういうことはあとで言おうよ、と思います」  国や自治体からの支援でひとまずは営業を続けられているが、急な時短要請などに備える日々は、日常とは程遠い。河野氏は、こうした面でのサポートに取り組んでほしいと語る。 「病床使用率や陽性率が何%まで下がれば解除する……というように、ゴールを示してほしいです。闇雲にやっていても、終わりが見えなくて外に出てしまうという人もいると思います。明確に目指すところがあれば、みんなもっと頑張れるんじゃないですかね」
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足を運んでくれるお客さんだけが心の支え
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