急な時短要請にメディアからのバッシング……。追い込まれた飲食店は「お客さんだけが支え」

数日の前倒し・延長が死活問題に

 難題が山積みの飲食店だが、前出のKITEN!河野氏と同じく、バッカスの樋口氏も、よりハッキリとしたアナウンスを発してほしいとの気持ちは同じだ。 「時短営業が数日前倒しになるのは死活問題です。業態が大きく変わるわけではありませんが、新しいメニューやポップを作って、場合によっては食器も必要になります。仕入れ・仕込みもありますし、なし崩し的にいきなり延長されたり、前倒しされるのは厳しいですよ。数値目標を示していただき、せめて一週間ぐらいは準備期間がほしいです」  我々にとっては「あって当たり前」の飲食店。しかし、そんな当たり前はほかの多くの事象と同じく、コロナショックを機に変わっている。美味しいお酒や食べ物を笑顔で運んでくれ、快適な空間を提供してくれる居酒屋だが、その裏では薄氷の上での戦いが繰り広げられているのだ。

カネだけがやりがいじゃない

 眠れない日々が続き、お店をたたむことも考えたという樋口氏。何とか、自分が理想とするお店のスタイルに戻したい。明るい光はいまだにさしていないが、そんな想いで日々営業を続けている。 「コロナ云々の前に、仕事にやりがいを感じるから続けているんです。宅配に特化するのもアリですが、お客さんに来ていただいて、接客して、お店の雰囲気作りをして……。それが楽しくてやりがいに感じているんです。もちろん商売でやっていますが、お金を儲けるためだけにやっているわけではありません。お店をたたんで地元で再起することも考えましたが、歴史のあるお店を継いだ以上は頑張りたいです」  今回、取材を受けていただいたのは、全国に数ある飲食店の氷山の一角だ。お店の数だけ歴史や文化があり、コロナショック下ではそれだけ多くの悩みがある。生活に欠かせない存在でありながら、何か問題があれば真っ先にバッシングの対象となる飲食店は、不当な扱いを受けているように思えてならない。  人は苦境に立たされると、ますます分断を深め、壁を作ることで安心しがちだ。自らや大切な人と同じく、飲食店も「我々」の一部であることを肝に銘じたい。 <取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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