NHKの報道担当理事が、内閣官房副長官と今もつながっている
放送直前に、出所のはっきりしない指示で番組内容を変更させられるというのは、私にも経験がある。2018(平成30)年4月、森友事件の公文書改ざんをめぐる「クローズアップ現代」。
改ざんをさせられて命を絶った財務省近畿財務局・赤木俊夫さんの話を冒頭で放送せずに、不自然なまでに短く目立たなくさせようとする上層部。社会部のデスクを出演させまいとする謎の判断。現場は反発して大混乱だった。
だから今回も現場の怒りと憤りがよくわかる。NHK上層部の人たち、特に政治部出身の幹部たちは、なぜそこまで政権に気を使うのだろう。そのヒントとなる事実について考えてみたい。
話は30年以上前にさかのぼる。1987(昭和62)年、私はNHKに採用され、記者として山口放送局に赴任した。NHKは全国を地方ごとに区切って管轄局を置いており、山口は中国地方5県を管轄する広島局の管内だった。
その当時、広島管内でもっとも目立っていた記者は、鳥取放送局にいる、私の2年上の先輩だった。全国一小さな県なのに、警察の捜査情報でしばしば全国放送になる特ダネを飛ばし、光り輝いていた。
「すごいなあ、あの先輩のようになりたいなあ」と憧れたものだ。名前を小池英夫さんという。
小池さんは力量を買われて政治部へ異動し、そこで順当に出世を重ねて政治部長、報道局編集主幹、さらには全国の報道トップの報道局長になった。その当時、森友事件で私が出した特ダネが気に入らなかったようで、私の上司だった大阪の報道部長に
「あなたの将来はないと思え」と言い放った。その後、今は報道担当の理事へとさらに出世している。
1988年8月22日の、私の取材日誌の記載。昼の全国ニュースで鳥取発の小池さんの特ダネが出ていたことを書いている。
新人時代の私の取材ノートを見返すと、鳥取で特ダネが出たことを示す記載がある。もちろん小池さんのことだ。その直前まで約2年間、鳥取県警トップの警察本部長だったのは誰かと言うと……杉田和博氏。警察官僚で、当時鳥取に赴任していた。
今は官僚トップの内閣官房副長官。内閣人事局長も兼務している。日本学術会議の任命拒否問題で、除外された6人を選んだのは杉田氏だと指摘されている。
杉田氏は小池さんに今も時々電話をしているようだ。2人はまだつながっているのである。
記者が昔の取材先とつながっているというのは、取材者としてはいいことだ。でも、小池さんはすでに取材者ではないだろう。
NHK報道を差配する立場の人が、権力の中枢にいる人物とつながっているということを、視聴者はどう見るだろうか?
NHKの報道幹部が首相秘書官にどやしつけられている?
小池さんについては別の話もある。今から数年前、小池さんが、ある親しい人物に携帯のメッセージを見せながら、
「俺もいろいろ大変なんだよ」とぼやいたという。その画面には
「あの放送はなんだ。ふざけるな」という趣旨の言葉が書かれていた。あまりの上から目線の言葉に、見せられた人は驚いたという。送り主は、官僚出身の首相秘書官。安倍首相(当時)からの信頼が厚いと言われていた人物だ。
この話は人づてなので、どこまで正確かはわからない。だが、NHK内で一部の人たちの間に流布していることは確かだ。本当かどうかは別にして、
「NHKの報道幹部が官邸の秘書官から上から目線のメッセージを送りつけられている」という話が、NHK内で広まるだけで、現場に悪い影響を及ぼすことは間違いないだろう。
こう書くと、小池さんについて「役員にふさわしくない」と主張しているように受け止められるかもしれない。でも、そうではない。
報道のトップとしてはふさわしくないとしても、他の役職にはふさわしいということだってあるだろう。
例えば営業担当。NHKの営業は受信契約と受信料をいただくのが業務だ。小池さんはかつてピカイチの特ダネ記者だった。これは間違いない。情報をキャッチできるということは、受信契約や受信料だってキャッチできるのではないか?
営業は営業出身者、報道は報道出身者と分けて、局長になっても理事になってもそのまま既得権益のようにポジションを守っているから、組織が縦割りになるし、他の世界が見えなくなる。報道出身者が営業幹部を務めれば、いやでも視聴者と向き合って、官邸目線ではなく、視聴者目線を意識するようになる。
逆に、営業出身者が報道幹部を務めれば、視聴者目線を意識して、視聴者に受け入れられる報道が実現するかもしれない。
「政権の犬」はごめんだが、「視聴者に信頼されるNHK」は本来あるべき姿だろう。