ニコラス・ケイジが放送禁止用語を連発!? Netflix『あなたの知らない卑語の歴史』が面白い

「ビッチ」は差別的?

<言語や歴史学>  ポップ・カルチャーからの引用をまぶして、わかりやすく卑語の歴史を紐解く同シリーズだが、その根底ではしっかりとした学術的な検証がなされている。  たとえば、「SHIT」は日本語でも「クソ」という似たニュアンスの卑語があるが、もちろん本来の意味は排泄物である。  筆者が特に興味深く感じたのは、遥か昔はトイレが個室になっていなかったため、家族や赤の他人と同じ空間で用を足していた、「糞をしていた」という歴史だ。  排泄物であるため、元来否定的な意味合いも含んでいた「クソ」だが、今ほど忌み嫌われる存在ではなかったというわけだ。  また、同シリーズには「BITCH」「DICK」「PUSSY」といったジェンダーに関連した卑語も登場する。女性の研究家やコメディエンヌたちが「アリなBITCH」と「ナシなBITCH」の違いなどについて議論する様子は抱腹絶倒モノ。  しかし、それはいまだに蔓延るミソジニーの裏返しでもあり、笑いと差別の複雑な関係についても、同シリーズはメスを入れていく。

罵ることで心身が健康に

<心身への影響>  相手と打ち解けるツールにもなれば、酷く傷つけることもできる……。さまざまな力を持ち、諸刃の剣にもなり得る卑語だが、実は物理的に心身にも影響を及ぼすことをご存知だろうか?  そう、人間は「クソ〜!」「チクショー!」と罵ることでストレスが軽減されたり、通常以上の力を発揮することができるのだ。  同シリーズでは、科学的な検証実験も行われ、卑語の秘められたパワーが紹介される。仕事に忙殺され、本来のパフォーマンスが発揮できていないという方も、必見である。 <ニコラス・ケイジ>  こうした多様な要素を統べ、明るいものから攻撃的なものまであらゆる卑語のニュアンスを表現し、バカバカしさと大真面目の間に立てる人物はなかなかいないだろう。そんな絶妙な立場を難なくこなし、司会進行を務めるニコラス・ケイジの存在は同シリーズに欠かせないものだ。 「ニコラス・ケイジが卑語の歴史を紹介」という、あまりにインパクトのある番組内容だけで興味を持った人は世界中にいるはずだ。筆者もその一人である。  ケイジはそんなファンの期待を裏切らないどころか、新たな引き出しを見せてくれる名作映画からの引用さまざまな訛りの再現卑語の発声やニュアンスを切り替える絶妙なデリバリー……。  歴史ジェンダー政治カルチャーといった要素が渦巻く卑語の世界で、ニコラス・ケイジは太陽として輝いているのだ。このケイジを観るためだけでも、同シリーズは十分鑑賞に値するだろう。  長々と紹介してきたが、前述のように各エピソードは非常にコンパクトな作りになっているので、まずはとにかくチェックしてほしい。卑語の歴史はあなたが思う以上に、「クソ面白い」こと間違いなしだ。 <取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会