日銀の金融政策を見ると、黒田総裁の就任直前の3月末に米国の連邦準備制度理事会(FRB)の議長(中央銀行総裁)は、「米国以外の国が金融をもっと緩和してくれると、経済情勢が改善する」と明言していた(2013年3月31日付け日本経済新聞)。日本の異次元の超金融はこうした流れに呼応するものであったとみられる。
2013年4月の黒田総裁就任以来、直近の2020年11月までの7年7ヵ月間の推移をみると、MBは471兆円増加して606兆円に達している。しかし、増加額471兆円のうち日本で使われたマネーはその71%に当たる335兆円に過ぎず、残りの29%に当たる135兆円は海外へ流れ、投機マネーとして使われている。このマネーを借り入れた投機業者はドル買いと株買いをしたので
円安・株高になり、輸出業者は多額の利益を得た反面、消
費者は光熱費や輸入食糧の物価高で実質所得が減少している。
リーマンショック以来、超金融緩和を実現してきたFRBは、2014年10月から金融正常化に舵を切り、通貨量を増やさないようにしながら2019年10月までに7度の金利引き上げを実行して金融の正常化に努めてきた。この結果、米国の銀行の利ザヤはプラスであって、金融緩和でも米国の地銀は利益を上げている。
米国が通貨量を絞り金利を引き上げているときに、日銀はこれに呼応してマイナス金利を廃止するチャンスは十分あった筈だ。ところが黒田総裁は、米国や安倍前首相に忖度してきたためか、マイナス金利を継続し、地銀のみならず、信金や信組にも犠牲を課してきた。
コロナ不況が蔓延しているなかで、自らの反省もせずに地銀再編を強行しようとする菅首相の地銀潰しは、絶対に許してはならない。
<文/菊池英博>
きくちひでひろ● 経済学者。東京銀行(外国為替専門銀行、現三菱UFJ銀行)を経て1995年に文京女子大学(現文京学院大学)経営学部教授、2000年から同大学院教授を兼務。専門は金融論、国際金融、日本経済。日本金融財政研究所の所長および教授
<記事提供/
月刊日本2020年2月号>