安倍政治の負の遺産。地銀不況の責任を無視して地銀潰しに動く菅首相<日本金融財政研究所所長・菊池英博氏>

銀行イメージ

yamahide / PIXTA(ピクスタ)

アベノミクスが招いた「地銀不況」

 2020年9月に首相に就任した菅義偉氏が、国会で就任演説をする前に「地方銀行の数が多すぎる」と発言したことによって、地銀の合併など再編に向けた議論が加速している。しかしコロナ禍のもとで、地銀が中小企業を支援する要請が強まっているなかで、拙速な再編は地域金融を破壊し地域経済に悪影響を及ぼすことになる。地銀の不況はアベノミクスが招いた結果であり、とくにマイナス金利が致命傷になる地銀もある。菅首相は官房長官として安倍行政を積極的に支援した責任者であるのに、それを無視して地銀潰しに走る発言は無責任な政治姿勢と言わざるを得ない。  具体的にみると、直近の2020年3月期の決算状況では、上場地銀78行のうち約7割に当たる54行が前期比で減益であり、3行は赤字だった。地銀の収益状況が悪化してきたのは、2012年12月からの第2次安倍政権からであり、財政面ではプライマリーバランスを重視するデフレ政策をとって中央から地方への資金循環が縮小し、地方経済のデフレ化が進んだ。さらに2013年4月に総裁に就任した黒田東彦氏は、「2年間でマネタリー・ベース(MB=日銀にある金融機関の当座預金と日銀券の合計、つまり金融機関がすぐに使えるマネー)を2倍にすれば消費者物価は2年間で2%上昇する」という政策目標を立てて、異次元の金融緩和を進めた。この結果、マネーが市場に溢れたために、地銀の利ザヤ(貸出金利と預金金利の差額)が縮小し、地銀収益は減少した。

犠牲者である地銀を潰しにかかる菅総理

 一方日銀は、2年間でMBを2倍以上にしても消費者物価は2%上昇しないことが分かり、この失敗を隠蔽するために、2016年1月にマイナス金利を導入した。マイナス金利とは、日銀にある金融機関の預金量が一定の限度よりも増えると、その増えた分に一定量(例えば年0・1%)の手数料を課す、その手数料である。マイナス金利の目標は「金融機関に預金をすべて使いきってくれ」ということであり、「余れば余資にペナルティを課す」と言うことだ。  しかしデフレが浸透している地方では、資金需要が減退しており、地銀はマイナス金利を徴収され、収益減に追い込まれた。マイナス金利を導入した欧州中央銀行でも「マイナス金利は銀行の収益を悪化させ、金融機能を弱めた」と言われている。マイナス金利という劇薬を経営体質の弱い地銀にも適用したことは日銀の大きな失敗である。地銀は異次元の金融緩和の犠牲者であるのに、その犠牲者を「整理統合で潰しにかかる」というのが菅首相の考えだ。
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異次元の金融緩和がもたらした「負の遺産」
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