一方で、感染を隠したくなるのもわからなくはない。陽性者に対する誹謗中傷や差別――。魔女狩りならぬ、“感染者狩り”が各地で問題視されているからだ。
「娘の同級生が、家族がコロナに罹ったことで転校してしまった。自分も検査をしましたが、それを聞いて陽性だったら家族にも秘密にしようと思いました」(男性・41歳・自営業)
「検査したら陽性で、10日間入院しました。幸い、濃厚接触者にあたる人はいなかったので、職場には休むことを連絡して医者の指示通りに復帰。2か月後に感染していたことを周りの人に打ち明けると、『何でいまさら』『本当は人と会っていたんじゃないか』と非難され、ここまで風当たりが強いとは思いませんでした」(男性・26歳・フリーター)
本文中の26歳男性が病院でコロナと診断が記された書類。「病院に行けと周りに言われてなければ自宅療養で済ませていたと思います」
誰もが疑心暗鬼になり、感染者第1号になるのを恐れている
コロナ差別の相談を受ける
NPO法人ワールドオープンハート理事長の阿部恭子氏が語る。
「家族に感染者が出て村八分になり、引っ越しする例は珍しくない。東京から帰省した大学生の息子が感染した人は『家族として責任を取るべき』とバッシングを受け、親戚にすら『そもそもなぜ東京の大学に進学させたんだ』と非難されて絶縁状態になったそうです。
感染者が少ない地方は、特定が容易であるため差別が生じやすいのですが、都会も例外ではない。スポーツジムで『あいつは都内勤務だから気をつけろ』と仲間外れにされた人、会社で差別を恐れてなかなか言い出せず感染を隠蔽していたとして降格処分になった人も。誰もが疑心暗鬼になり、コミュニティで感染者第1号になるのを恐れているのです」
「まるで犯罪者扱いだ」と阿部氏が指摘していた取材の直後、政府は、積極的疫学調査で拒否や虚偽の報告した人に罰則を科すことを検討していると明らかにした。感染者が行動歴の聞き取りを拒否するケースがあることが理由としているが、コロナ隠しの抑止力になるどころか、陽性結果を恐れて検査や受診を避ける恐れもある。なにより、ますます偏見や差別を招くことは想像にたやすい。
「コロナ差別は、感染者が感染経路などを話しにくい状況をつくり出し、感染拡大防止に必要な情報を失わせてしまっている。そのような風潮を打破するためにハラスメント対策が急務です。自治体の相談窓口のほか、企業や施設単位でも行うべき。感染したときはすぐに公表できるよう、周りの人は『大変だったね』と労る社会にすることが大切です」(阿部氏)
感染者に理解を示すことも、感染拡大防止のためにできることだ。