――学力上位層においても国語力の低下が見られるのでしょうか。
高橋:1990年代半ばから学生たちを見ていますが、東京大学に進学するような上位層でも読解力、記述力は低下しています。特に記述力は格段に下がっていますね。レベルが低い者同士が競って入っているという印象です。読解力は選択肢を選ぶ問題なので何とか点数が取れたという感じで、書くのが嫌だという生徒が多いです。
――東京大学の二次試験は全部論述試験ですよね。
高橋:そうです。東大特進コースで教えていた時期もあるのですが、来ているのはいわゆる御三家のレベルの子たち。彼らも書くのが苦手なのですが、記述の仕方を教えると一度はミスっても2回目はミスしない。そこはさすがです。点数への執着はすごい。黒板に答えを書かせて訓練すると1学期はダメでも2学期、3学期になると徐々に上がって来る。大体全体の6割ぐらい取れるようになると受かりますが、所詮はその程度のレベルです。
昔だったら受からないだろうという層も合格していますね。いわゆるキレがなくても入れます。ちなみに、東京大学の国語は、現代文・古文・漢文なので、暗記をすればある程度点数が取れる古文と漢文で点数を稼いで入学している子たちも多い。なので、現代文は捨てている子たちもいます。受かっているといっても現代文は全体の3割~4割ぐらいの得点率でも合格します。私立大学を例に取ると、昔明治大学に入っていた層が、今早慶に入っているという印象です。昔の日東駒専がいわゆるMARCHのレベルといったところでしょうか。
――東京大学は出題方式も変更になったとのことでした。
高橋:東京大学文系は、1999年まで150分で7題解かなくてはならなかったんです。現代文・現代文・古文・漢文・現代文・古文・漢文の7題。ところが今は4題です。7題を解かせるのは今の子たちには無理です。またその時まで200字作文というのもありました。おそらくあまりにできないのでやっても意味がないから廃止になったんだと思います。200字作文は私も自分の授業で試してみたのですが、全員同じことを書くんです。
例えば、東大特進クラスで「青春とは自己否定である」というお題で書きなさいと指示をして書かせたことがありました。そうしたら、全員が「青春は完全なものではなく、未完なものである。完全を目指して、今の自分を否定し続けなくてはならない」という趣旨のことを書きました。「未完の自分を否定して完成を目指す」と。それは「自己否定ではない」と僕は言いました。「完成を目指す自分」を肯定しているわけです。
勉強ばかりしてきて人生経験の乏しい東大の受験生は自己否定できません。自己否定できないので思考停止になってしまうんです。「小さい頃から勉強ができてママに『すごい、すごい』って言われて生きてきた君たちは、自己否定できないよね」と200人ぐらいを前にして言うと、みんな黙ってしまいます。でも、そこで「東大を否定してハーバードに行けば?」と言うと、目が輝きだす。
東大はいわゆるハーバードのレベルを求めていましたが、今では要求レベルを下げていると思います。やはり、2~30年前の問題をやらせると、文理共通の問題はある程度できますが、文系向けの随筆の問題はできない子が多い。