高橋廣敏さん
いよいよ今週末から始まる
大学入学共通テスト。今年の受験生はコロナ禍で学校の授業を満足に受けられず、十分な学力が身に付かないのではないかという不安が保護者の間に広がっているようです。
また、少子化で一人に掛けられる教育費が多くなったこと、そして長引く不況で少しでも就職に有利なようにと高い学歴を望むことから、受験の低年齢化が進み早期の英語教育なども盛んに行われています。
一方で、子どもの学力、特に国語力は低下しています。OECDが実施している15歳の子どもたちを対象にした学習到達度調査のPISA(Programme for International Student Assessment)では、2000年の調査では数学的リテラシー1位、科学的リテラシー2位、読解力8位とトップクラスだったのに対し、2003年には科学的リテラシーは2位を維持したものの、数学的リテラシー6位、読解力14位となりました。2003年の結果は「PISAショック」と言われ、ゆとり教育の見直しが始まり一時期は順位も回復傾向にありましたが、2018年は、数学的リテラシー6位、科学的リテラシー5位、読解力は15位。読解力は相変わらず低レベルのままです。
いわゆる難関大学の教員からも「今の学生は総じて幼く思考力が低い」という苦情も聞きます。教育費は上昇する一方で、精神年齢や思考力は低くなっていると言われれている今の子どもたち。一体彼ら彼女らに何が起きているのでしょうか?
今回は、長年代々木ゼミナールの東大特進クラスなどで現代文小論文を担当し、
『書き方のコツがよくわかる 人文・教育系小論文 頻出テーマ20』(KADOKAWA) など数多くの小論文の本を執筆、現在はN予備校で教鞭を取る予備校講師の
高橋廣敏さんにお話を聞きました。
――少子化が進み一人当たりにかけられる教育費の向上も相俟って中間層の教育熱は上がっていると感じますが、教育熱心な親御さんが増える一方で、学力(読解力)は落ちるという不思議な現象が起きています。このことについてはどうお感じになっていますか。
高橋:読解力は確実に下がっていると思います。ゆとり教育やスマートフォンが行きわたって長い文章を読まなくなったことも関係あるのかもしれません。その昔はテレビが悪者でしたが、今はスマホですね。若い子たちがスマホに時間を取られ過ぎている。スマホに書いてある文章は身につきません。読解力を上げるためには紙に書いてある文章を読んだ方がいいです。
そして、やはり一番の原因はゲームではないかと思います。ゲームを悪者にしてはいけないという風潮がありますが、ゲームをやっても読解力は上がりません。ゲームは反射神経でやるものですが国語にはロジックを組み立てる力が必要なんです。ゲームに時間を取られ過ぎると字を読む時間が相対的に減少して、結果的に読解力は低下してしまう。小論文を指導していますが、生徒に「何が好き?」と聞いて「ゲームが好き」と答えられるとそこから指導するのが本当に大変です。
ゲームに必要とされる反射神経は右脳の力です。一方、国語の問題を解くのに必要なロジックを組み立てる力は左脳の力です。右脳の力はかつての社会では自然界で発揮されていたと思います。例えば、左前方に蛇がいる。前にイノシシがいる。右側にサソリがいる。これを同時処理して一瞬で判断するのが右脳です。ところが、今はその右脳の働きを自然界の中で実践するのではなくゲームの中でやっています。そしてデジタル空間の中で培われた力は実社会で応用が効きません。
「うちの子はゲームをしている時は集中しているんです」と言う親御さんがいますが、ゲームは条件反射しているだけなんですね。ロジックがない。現代文の問題を解くにはロジックが必要なのでゲームをしている間の集中力では解けません。筋道を立てて考えることができないまま結局、デジタル空間の中でのゲームだけが上手くなって終わってしまいます。