トランプを敗北に導いた『すべてをかけて:民主主義を守る戦い』から学ぶ民主主義のための戦い方

受け取るべきメッセージ

 『すべてをかけて:民主主義を守る戦い』を見て、我々が受け取るべき教訓は何だろうか。一般的には、次のようなものとなるだろう。日本では、投票率の低下が問題になっている。地方選挙となると5割を切るのがもはや当たり前だ。しかし権力者にやりたい放題させないためには、選挙にしっかり行って、投票権を行使することが重要なのだ、と。  確かに投票権の重要性というメッセージを読み取ることも必要だろう。しかし、より注目すべきなのは、アメリカの政治システムにおいて、有権者登録制度を利用した構造的な排除が行われていることを問題とした人々が、行動を起こしたということだ。民主主義制度のバグは、選挙制度だけではない。無謬な制度は存在しないのであって、権力者は常にその欠陥を利用する。権力者がやりたい放題し始めると、アンシュッツの言う通り「ここで法は終わる」。  2016年にトランプを勝利させたものは、このドキュメンタリーを見る限りでは、何のことはない。2013年以降、マイノリティの有権者を意図的に排除してきた選挙システムの問題ということになるだろう。今「不正選挙」とがなりたてているトランプは、この不公正な選挙システムの恩恵に預かってきた。ジョージア州での逆転は、不公正なシステムに対する地道な運動の勝利だったのだ。  同様のことは、民主主義制度についての他の問題にもいえる。制度の欠陥とそれを利用する権力者に対して、行動を起こすべきだということだ。エイブラムスの演説によれば、「沈黙することは、声をあげた人々を黙らせる者にとっての武器となる」し、「民主主義が侵食されていくことは不正義」だからだ。そしてその手段は、投票だけではなく、様々な可能性に開かれているのだ。 <文/藤崎剛人>
ふじさきまさと●非常勤講師&ブロガー。ドイツ思想史/公法学。ブログ:過ぎ去ろうとしない過去 note:hokusyu Twitter ID:@hokusyu82
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