「関生事件」が揺るがす労働基本権<労働裁判が働き手を素通りするとき>

判決に抗議表明する関生支部員ら=12月17日京都地裁で(撮影・土屋トカチ)

判決に抗議表明する関生支部員ら=12月17日京都地裁で(撮影・土屋トカチ)

 労働条件の改善の王道は、労使交渉といわれる。会社の内情を知っている労使がそれぞれの立場から話し合い、適切な落としどころを探ることができるなら、それに越したことはない。  また、働く側は会社より弱い立場にあり、一致団結しないと会社との対等な交渉は難しい。そのために憲法28条は、労組を作って団体交渉やストライキをする権利を「労働基本権」として保障している。ところが、そうした交渉を最も必要とするコロナ禍の下、その基本権を揺るがしかねない判決が近畿圏で相次いでいる。「関西生コン事件」地裁判決だ。

保育園の入所書類求めたら「強要未遂」

 2020年12月17日、京都地裁で、生コンミキサー車の運転手らが加入する全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)の労組員に、有罪判決が言い渡された。労組に加入した男性の子どもの保育園通園のため、就労証明書の不交付に抗議したことを「強要未遂」とし、参加したメンバーのうち2人を懲役1年と懲役8カ月(いずれも執行猶予3年)とする判決だった。  共働きに、保育園は不可欠だ。そんな生活の基礎となる就労証明書の要求が、なぜ、逮捕、起訴に発展するのか。 生コン業界とはおよそ縁のなかった筆者が最初にこの事件に注目したのは、そんな疑問からだった。  判決文や公判での証言などによれば、事件の発端は、2017年10月、京都府内の生コン製造販売会社で、短期契約のミキサー車運転手としてとして働いていた男性が正社員化を求めて関生支部に加入し、これを会社に通告したことだ。  会社は、「廃業する」「男性は個人事業主の請負運転手で社員ではない」として団体交渉を拒否した。11月中旬には、男性が毎年交付されていた就労証明書も出せないと言われた。11月30日の期限までに市に証明書を出さないと、次年度の保育園の手続きが難しくなる。男性も労組員たちも焦った。労組に加入したことへの嫌がらせではないかとの疑いも抱き、何度も会社に要求に出かけた。  市からは、「廃業の予定があっても、現段階でその会社で働いているならその証明書を出してほしい」と言われた。11月27日、労組は要求の場でこれを会社側に伝え、交渉相手になっていた経営者の妻は、市に確認の電話を入れた。市が確認した直後、妻は体調不良を訴え、救急車を呼んだ。  その後も交付はなく、労組員たちは期限の直前に市に相談に駆け込んだ。市は、保護者が暫定的な書面を書くことでとりあえず手続きを取るという代替案を示し、正式な就労証明書を後で提出することを条件に、かろうじて通園はできることになった。

証明書の要求が罪に問われた

 それから1年半たった2019年6月、この事件を理由に労組員らが逮捕された。容疑は刑法223条の「強要罪」。「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者」に対する罪だ。  起訴状では最初、男性が「個人事業主の請負」で、雇用されていないから団体交渉権はないとされ、「義務なきこと」を求めたとされた。だがその後、男性は「日々雇用」「アルバイト」など、会社専属の被雇用者として働いていたことがわかっている。  とすれば、今回の判決で「義務なきこと」はどう判断されたのか。  検察側は団交申し入れ後のすべてを「強要未遂」としたが、判決では、経営者の妻が体調不良を起こすまでの労組の行動は「団体交渉の要求を超えて脅迫に至っているとまではいえない」とされた。ただ、その後は、体調不良にもかかわらず執拗に要求したので強要罪の中の「脅迫」にあたるとし、ただ、証明書は結局交付されなかったので「強要未遂」、との言い渡しになった。  子ども子育て支援法4条には「事業主の責務」として、「子育ての支援に努めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる子ども・子育て支援に協力しなければならない」とある。これをもとに弁護側は、会社側には就労証明書を発行する「義務」があったと主張した。だが裁判所は、「その条項は理念的なもの」とし、就労証明書がなくても入園は認められたのだから「義務」があったとまでは言えないとした。  これは重大な判断だ。そうした解釈が横行すれば、働く父母は勤め先から就労証明書を出してもらえなくても責任を問えないはめに陥りかねないからだ。
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