人々を“子供化”する権力の問題<デビッド・グレーバー追悼対談:酒井隆史×矢部史郎>

中間団体の持つ権力

矢部 封建社会であれば、地方権力というか、たとえば封建的な貴族、中間権力がいる。このひとたちの自立性というのもあったんだけど、天皇制というのはそういうのをなくして、ひとしなみに赤子にしてしまう。 酒井 さまざまな中間的諸権力があるならば、その場その場でいろんな力学が働く。 矢部 同業組合とか。 酒井 そう。大人になる、というのも明確だったし。 矢部 今びっくりするのは、311の話になるけど、医療労働であれ、教育労働であれ、そこから自立的な声として放射能をなんとかしろという声が上がらなかったこと。 酒井 ぎりぎり1980年代ぐらいまでなら少しは違っていた、たぶん。だから、無茶苦茶な嘘をいってもまかり通るんだよね。 矢部 今回のコロナでは、日本医師会も弱々しく政府に苦言を呈しているものの。 酒井 信じ難いことがいっぱい起きている。情報とかで適当なことをいうとか、昨日あったことを忘れている、というのがまかり通るとか。 矢部 やっぱり「天皇は私たちを慮ってくれる」みたいな姿勢や態度をとる前に、たとえば自分たちの中間団体のなかで、たとえば連合の総合政策局がどういう態度をとっているのかとか、民医連はこの問題にどういう見解を示すのか、とか、そういうことをやるべき。 酒井 で、日本の「無責任体制」と呼ばれたようなあり方なども、グレーバーたちの王権論によって、射程をより深く、権力の細かい分析と歴史的な視野を持って語れる気がするんだよね。 矢部 グレーバーにはアプローチのヒントがいっぱいある。 酒井 さっきもいったけど、思考がヨーロッパに限定されてないから。グレーバーを読んでほんとうに感じるのは、ポストモダンとかいうけど、それもなんだかんだいって発想が近代、ヨーロッパ発だということ。 矢部 なるほど。とはいえ、ドゥルーズ=ガタリを擁護すれば、かれらの射程はもっと深かったとはいいたい。 【酒井隆史(さかい・たかし)】 大阪府立大学教授。社会思想。『通天閣 新・日本資本主義発達史』で第34回サントリー学芸賞受賞。著書に『自由論 現在性の系譜学(完全版)』『暴力の哲学』、訳書にD・グレーバー『官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則』、『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(共訳)、『負債論 貨幣と暴力の5000年』(共訳)、マイク・デイヴィス『スラムの惑星』(共訳) 【矢部史郎(やぶ・しろう)】 愛知県春日井市在住。文筆・社会批評・現代思想。著書に『夢みる名古屋』、『3・12の思想』、『原子力都市』、『愛と暴力の現代思想』(共著)などがある。
フリーの編集・ライター。編集した書籍に『夢みる名古屋』(現代書館)、『乙女たちが愛した抒情画家 蕗谷虹児』(新評論)、『α崩壊 現代アートはいかに原爆の記憶を表現しうるか』(現代書館)、『原子力都市』(以文社)などがある。
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