今だからこそ、人と人のつながりの尊さを改めて伝えたい
樹齢数百年のガジュマルを見上げるコロッケさん
コロナ禍に明け暮れた昨年。その1年の世相を表す「2020年今年の漢字」に選ばれたのは「密」でした。理由は「3密」が提唱され、生活や行動が密にならないよう人々が意識したから。本来なら「密接」「密着」など人と人との深い繋がりを示す文字ですが、昨年はこれが人と人との距離を象徴する文字になってしまいました。
そんな今だからこそ、人と人との出会い、結びつきの大切さを訴えたい。そういうタレントさんが現れました。
それは、コロッケさんです。美川憲一さん、千昌夫さん、岩崎宏美さんをはじめ、数々の芸能人のモノマネで知られます。歌手、俳優としても活動し、多くのテレビ番組にレギュラー出演。舞台の座長も務めてきました。昨年、芸能生活40周年を迎え、東京と大阪で記念公演を行うはずでしたが、コロナの影響で中止になってしまいました。
舞台公演も、コンサートやライブイベントも、講演も、人が集まる催しはことごとく中止に追い込まれています。人に会うこと自体を避けようという空気が生まれています。感染予防のためということですが、そんな状況だからこそ、人と人とのつながりの尊さを改めて伝えたい。出会いとふれ合いの大切さは、いつの世も変わらないはずだから。
そんな思いから「コロッケの旅うた」というライブ配信イベントが企画されました。コロッケさんが興味をひかれる場所に出かけ、旅先で出会った人たちと、その土地ならではの自然と文化を体験する。その魅力を、映像とライブステージの音楽を通し、リモートで見ている人たちに伝える。
そんなリアルとリモートを組み合わせた新時代のエンターテインメントにしよう。その第1弾として選ばれた旅先は、東京から南西に約2000km、日本の西の果てに近い、沖縄の石垣島です。
石垣島と言えば、尖閣諸島や陸上自衛隊配備問題を思い浮かべる方もいるでしょう。ですが今回は、そういう政治国際問題がきっかけではありません。これは配信イベントですから、見る方にその場所まで来てもらう必要がありません。
距離の制約がないのですから、どうせなら遠く日本の国境に近い場所から、その土地の魅力を伝えてはどうだろう? 本土の人がなかなか体験できない石垣の人々とのふれ合いを、代わりに体験しよう。それが発端の一つでした。
自粛ばかりでは、エンターテインメントの世界がどんどん封鎖的になる
12月13日、日曜日。石垣島はピーカンの青空が広がっていました。前日もよく晴れていたといいます。「この時期にこんなに晴れが続くことはめったにありません」と、地元の人も驚く好天に恵まれました。コロッケさんは晴れ男のようです。
スタッフとの打ち合わせ。ほとんどの人がこの時期でも半そでシャツを着ている
島の北部にあるリゾート施設「コーラルテラス石垣島」では、その夜に行う配信の準備が着々と進んでいます。気温は20℃を超え、スタッフは皆Tシャツ1枚。本土は真冬なのに、ここはほとんど夏日の感覚です。
リハーサル中のコロッケさん
前日から石垣島を訪れ、各地でロケを行ったというコロッケさん。配信会場の一角で、イベントへの思いを熱く語ってくれました。
「僕がいるエンターテインメントって世界は、喜んでくださるお客様がいて初めて仕事が成り立つ世界なんですね。若い時は『自分のために頑張る』という気持ちが強かったけど、40歳を過ぎる頃から『何でこの仕事をやってんだろう、自分のためだけにやってるってどうなんだろう』と感じて。『いや、そうじゃないよな。笑いを皆さんにお届けしますという気持ちが大事なんだ』と思うようになったんです」
「今、コロナが収束するかどうかわからないですよね。病気は怖いけど、負けないで共存していく覚悟も必要ですよね。何もかも自粛自粛だと、エンターテインメントの世界がどんどん封鎖的な形になっちゃう。それじゃあ皆さんに笑いを届けられないじゃないですか」
「僕が考えているのは、今よりもむしろ50年、100年先なんです。100年たった時に『あの時あの人たち頑張ってたよね。負けないでやってる人たちいたよね』と言われたい。それで、今できる方法をと考えたら、この配信のアイディアが出てきた。旅先でいろんな方にお会いしてお届けすれば、地元の人たちにも見ている人たちにも喜んでいただける。それをやらないでどうする、というのがこの話を最初に聞いた時の気持ちで、僕は絶対やりたいと思いました」
コロナで、人を拒否する方向の風潮が出ています。「密を避ける」という言葉で人と人とが分断されようとしている時に、もう一度人とつながる大切さを伝えたい。そんなコロッケさんの芸人としての思いが込められていると感じました。