祖業の「ファミレス」を捨て「うどん店」で「withコロナ」へ
フレンドリーの経営が悪化するなか、手を差し伸べたのがファミレス業界3位の「
ジョイフル」だった。
ジョイフルは西日本では「
低価格ファミレス」としておなじみの存在であり、低価格業態の開発による再建を目指していたフレンドリーにとって同社の支援を受けることは理にかなっていた。
フレンドリーの格安ファミレス業態「ゴッツあびこ店」(大阪市住吉区)。
ジョイフルに近い業態であったが、コロナ禍により2020年に閉店となった。
しかし、提携の理由は単にそれだけではないと思われる。実は、ジョイフルの創業者である
穴見保雄氏は、1970年代に食肉卸業者を通じてフレンドリー創業者で業界の先輩であった重里善四郎氏と知り合い、ファミレス運営の指導を受けたという恩がある。そのこともあってか、ジョイフルは現在までフレンドリーと直接競合するエリアにはあまり出店していなかった。つまり、フレンドリーにファミレスのノウハウを学んだジョイフルは成長を遂げ、
窮地に陥った旧師に恩返しするかたちとなったのだ。
かくして2018年5月にジョイフル傘下となったフレンドリーは、提携による物流の効率化などによる経営再建をおこなうこととなった。そこを襲ったのが、
新型コロナウイルスの感染拡大だった。
フレンドリーは緊急事態宣言にともなう店舗の休業・営業時間短縮を受け、2020年4月にジョイフルから5億円の資金借入を実施。資金調達による経営の安定化を目指しつつ5月中には一部の居酒屋で営業を再開した。しかし、都心部を中心に休業したままとなった店舗も少なくなく、5月8日には2020年3月期の決算発表を延期、5月22日には多くの店舗が休業したまま決算発表再延期と株主優待の廃止を発表するなど、先行き不透明な状態となった。
とくに、同社が21世紀に入って経営の柱の1つとしてきた「居酒屋」は、都市部(京阪神)の店舗が多いこともあって一部営業再開後も客足が戻らない状態だったという。6月4日には全70店舗のうち半数超となる
41店舗の閉店を発表。これまで「居酒屋」と「ファミレス」を経営の両輪としてきた同社であったが、2020年秋にはうどん店
「釜揚げ讃岐うどん 香の川製麺」以外のすべてを閉店するに至ってしまった。
「釜揚げ讃岐うどん 香の川製麺瓢箪山店」(大阪府東大阪市)。
コロナ禍により、2020年12月時点でフレンドリーが運営する店舗は全てがこの「香の川製麺」となっている。
実は、苦戦が続いていた同社のなかで唯一順調に店舗数を伸ばしていた業態が、この「
釜揚げ讃岐うどん 香の川製麺」だった。
香の川製麺は生まれてまだ10年ほどであり、同社にとってはまだ新しい「実験的業態」であった。しかしジョイフル傘下入り後は、2019年3月から大分県内(ジョイフルの本社は大分県である)のうどん店で見られる「365日3玉まで増量無料サービス」を開始したほか、7月にはうどん1品につきサイドメニューが無料となる「学割定期券」(500円)を導入するなどサービスと料金体系を刷新することで人気を集め、その後はフレンドリーなど系列不採算店20店舗を次々に香の川製麺へと転換。僅か2年で店舗数は5倍に、うどん店の売上高は10億円を超える規模へと成長した。
同社によると、「香の川製麺」業態の拡充には同社が所有する既存の設備を活用することができるといい、今後も大きな投資をおこなうことなく、閉鎖店舗など遊休不動産を活用するかたちで「香の川製麺」業態を増やし、経営の立て直しを図っていく方針だという。
「うどん店」はこれまで同社の主力業態であった「居酒屋」や「ファミレス」よりも客単価は大幅に低いと思われる。一方で、その客層は1人客や少人数が多く、さらに客回転率(店舗滞在時間)も高い。そのため「居酒屋」や「ファミレス」よりも
「withコロナ」時代にあった業態であるといえる。
コロナ禍を機に主業を捨て、「withコロナ」に合った業態のみに絞ることで生き残りを図るかつての大手ファミレス。
もちろん、ファミレス業界と同様にうどん業界も競争が激しいことには変わりない。苦しい時代のなか、関西で高い知名度を誇った屋号「フレンドリー」を捨てたことは果たして吉と出るのであろうか。まさに「捨て身」の挑戦は始まったばかりだ。
<取材・文・撮影/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>