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「ようやくホッとできました。本当に長かった――」。
歯科矯正医師を相手にした訴訟で全面勝訴した渡辺裕美さん(仮名)は訴訟提起から判決が確定するまでの4年間をため息交じりに振り返った。
治療開始からは約8年もの月日が経過していたこの事件。あなたはもし、1年で終わると説明された歯科矯正が2年3ヶ月経っても半分しか終わっていないことがわかったらどうしますか?
今回は実際に渡辺さんが経験した事例を紹介すると共に、歯科医に掛かる場合のポイントについて訴訟を担当したNTS総合弁護士法人の本田豊弁護士と弁護士法人霞門法律事務所の吉村薫弁護士の話を紹介する。
渡辺さんは海外で仕事をしていたものの、一時帰国が決まり、以前から気になっていた顎関節症を治すと同時に歯科矯正を決意。短期間で治療が終了する歯科矯正医院をインターネットで検索していたところ、目に留まったのが訴訟の被告となった医師が経営する「A矯正歯科」だった。
「ワード検索でも上位に来ていましたし、
グーグルの口コミの評判がとても良かった。先生はフレンドリーだし、とにかく早いと。それで信じてしまったんですね。
後から口コミを定期的にチェックしてわかったのですが、この歯科医院の口コミには
実際のトラブルなどネガティブな書き込みがあった次には、すぐに満点のコメントが付いているんです。しかも、
満点の書き込みをしているアカウントを追いかけると他の店や場所には全くコメントしていない。業者を雇って書き込みをさせているとしか思えませんでした」
口コミを信じた渡辺さんは、治療前診断料金約17万円を支払って院長によるカウンセリングを3回受けた。その際、通常は3年掛かる治療を1年程度に短縮できると院長から説明されたという。
歯肉を切開し、内部の軟らかい骨組織に切り目を入れる「コルチコトミー手術」と歯列矯正用のアンカースクリューを用いる矯正治療手術を併用し、通院間隔を毎月2回に設定すれば1年間で治療が可能としたのだった。
院長によれば、先進的医療である「コルチコトミー手術」を独自に改良して矯正期間の大幅な短縮を実現したとのこと。渡辺さんは他に2つの歯科医に相談していたが、どちらも治療期間は1年半から2年という説明だった。
治療費は施術料金が約194万円、通院一回当たりの処置料金が1万500円、さらに治療前の検査や診断料金を加えると
総額250万円に近い額だった。一般の矯正治療のおよそ3倍の金額だ。しかし治療期間の短さに惹かれて契約を決意した。
ちなみに、この契約書には「ブラケット(歯とワイヤーを固定させる装置)を利用した治療の期間」については「
?」との記載があったが、契約書にサインした際、院長から治療期間の棒グラフ付きの説明書を見せられて説明を受けていたため、特段おかしいとは思わなかったという。