フロントからの視野はとても広い。細い路地で対向車を避けたり、Uターンもしやすい。インパネは計器類以外にラジオ、空調、USB端子のみ。右側のカーナビはオプション
ひと通り見終わったところで、いよいよ運転へ。価格からまったく期待をしていなかったが、大きく裏切られるほど乗り心地は快適だった。サスペンションは硬めだが、車体が800㎏程度と軽いため、ブレーキ時の揺り戻しは大きくない。中国では当たり前のデコボコ道を走っても、振動は小型車と変わらないレベルだ。
時速60㎞での走行。ガソリン車より加速が鈍いものの、ストレスを感じるほどでもない。停車も想像以上に滑らかでスムーズだ。モーターからは「ウー」という低い音が聞こえるだけで、普通のEVと音は変わらない。ただボディの材質や密閉性を落としているようで、走行音や外の騒音は比較的大きく聞こえてきた。
モデルはエアコンなしの45万円の車種に加え、エアコン付きと、航続距離が約40㎞長いモデルの3種類がある。フルスペックの最上位モデルでも約60万円なので、EVの中では破格といえる。
運転席と助手席の間隔は20㎝ほどで窮屈さはさほど感じなかった。リクライニングはかなり倒すことができ、そこそこ快適
気になる充電環境だが、急速充電には対応しておらず、下位車種で6時間半、上位車種は9時間かかる。家庭用電源からも充電可能で、充電設備はメーカーが無償提供してくれるという。ただし充電設備は駐車場に設置しなければならず、集合住宅が中心の都市部ではハードルが高そうだ。
中国の充電プラグなどの規格は統一されており、各所にある充電スタンドで充電できる。家庭用電源でも充電は可能だが、駐車場に充電設備を設置する必要があるとのこと
メーカーは宏光ミニEVを「代歩車(足代わりの車)」と位置づけており、長距離移動を想定していない。日常の買い物や子どもの送迎などの足代わりとして、郊外や地方都市に住む若者や高齢者を中心に売れているという。顧客のニーズと各社のラインナップの空白をうまく突き、価格を低くしたことがヒットの最大要因だろう。
専用アプリがあり、車両状態を調べたり、電池残量の確認が可能。ディーラーの担当者とのチャットやロードサービス要請もできる
日本でも小型車へのニーズは根強いがEVとなると高額だ。宏光ミニEVならその課題を解決してくれそうだが、日本上陸の可能性はあるだろうか。自動車評論家の小沢コージ氏は否定的だ。
「日本はプライドがあるので輸入を許可しないでしょうし、仮に入ってきたとしても、ユーザーは心情的に受け入れないのでは。世界的メーカーである韓国ヒュンダイも、乗用車部門は日本から一度撤退していますからね」
ただし、安価なEVが入ってくる可能性がないわけではない。
「日産やホンダは、中国専用ブランドのEVを合弁相手と現地で生産しています。日本メーカーであればユーザーも受け入れやすいので、ある程度安いEVが中国から入ってくる可能性はあります」
そうなれば競争が生まれ、国産EVも価格が下がるかもしれない。小型EVは欧州など世界中のメーカーが開発中で大きな潮流となりつつある。小型EVの普及には「政府による補助金の額がカギになる」と小沢氏は指摘する。
政府の環境対策への本気度が試されそうだが、手厚い補助金さえあれば、日本でも50万円を切るEVが登場するかもしれない!?