総理が国会で平然と嘘をついた事実を放置してはまともな国ではなくなる<弁護士・郷原信郎氏>

桜を見る会問題で記者に囲まれる安倍晋三前総理

時事通信社

安倍氏の大嘘が裏づけられた

―― 安倍晋三前首相の後援会が開いた「桜を見る会」前夜祭の費用を、安倍氏側が補填していたことが明らかになりました。安倍氏は首相当時、費用の補填を否定していましたが、郷原さんは安倍氏の説明は成り立たないと批判してきました。 郷原信郎氏(以下、郷原): もともと安倍氏の説明は完全に破綻していました。安倍氏が嘘をついていることは明らかで、将棋で言えば「詰み」の状態でした。  前夜祭で問題になっていたのは、1人5000円という会費は安すぎるのではないかということです。ホテルニューオータニの立食パーティーは1人1万1000円からとされているので、差額分は安倍後援会が補塡したのではないかと疑われていました。  もし補填が事実であれば、前夜祭には安倍氏の地元の支援者が多数参加していたので、公選法の禁じる有権者への寄付行為に当たる可能性があります。また、政治団体である安倍後援会が深く関わったパーティーであれば、収支が発生した場合、政治資金収支報告書に記載する義務があります。しかし、安倍後援会の収支報告書には夕食会の収支が記載されていませんでした。これはもろに政治資金規正法違反です。  これに対して、安倍氏は会見で、安倍事務所は参加者から1人5000円集金し、ホテル名義の領収書を手交し、受付終了後に集金したすべての現金をその場でホテル側に渡すという形で支払いを行ったので、安倍後援会としての収入・支出は一切ないと弁明しました。夕食会の参加費もホテル側が設定したものだとして、あたかもこのパーティーがホテル主催であるかのように説明したのです。  しかし、この説明には無理があります。もしホテル側が会費の設定を行い、会費の徴収もホテル側が行っていたとすれば、パーティーに参加した安倍氏夫妻や後援会関係者からも会費を徴収しなければおかしいはずです。その場合、安倍後援会には支出が発生するので、政治資金収支報告書に記載する必要があります。しかし、政治資金収支報告書には支出の記載がなかったわけですから、政治資金規正法に違反します。他方、もし安倍氏たちが会費を払っていなかったとすると、無銭飲食したことになります。いずれにせよ問題です。  その後、安倍氏は参院本会議の代表質問で、前夜祭が安倍後援会の主催であることを認めながらも、会費の徴収はホテル側が参加者から直接行ったため、後援会としての収入・支出はないという答弁を行っていました。語るに落ちるとはまさにこのことです。主催者が会費の徴収に一切関わらないパーティーなど、常識的には考えられません。  実際、今回の東京地検特捜部の捜査によってそのことが裏づけられました。ホテルニューオータニが検察に提出した資料の中には、安倍氏側が会費800万円以上を補填していたことを示す領収書が存在し、しかもその領収書は安倍氏の資金管理団体宛てとなっていました。安倍氏がこれまで行ってきた説明は丸ごと大嘘だったということです。

検察が捜査に乗り出した背景

―― 「桜を見る会」前夜祭の問題は安倍氏の首相在任中から批判されていましたが、検察は動こうとしませんでした。なぜこのタイミングで検察は捜査に乗り出したのでしょうか。 郷原:それにはいくつかの要因が考えられます。  一つは、今年5月に弁護士や学者など500人以上が安倍氏と後援会幹部を告発したことです。同様の告発は1月にもあったのですが、そのとき検察は「代理人による告発は刑事訴訟法に規定がなく、認められない」という不可解な理由で不受理としました。しかし、さすがに500人以上の告発があったとなると、全く捜査しないというわけにはいかなかったのだと思います。  もう一つは、「官邸の守護神」と言われた東京高検検事長の黒川弘務氏が賭け麻雀問題で辞任したことです。黒川氏が検察に残っていれば、検察が捜査に乗り出すことはできなかったのではないかと思います。  また、安倍氏自身が総理を辞任したことも大きかったはずです。検察としては、安倍氏が総理でなくなった以上、どのような形であれ捜査を行わなければ世の中の批判に耐えられないと考えた可能性があります。 ―― 一部では、検察の捜査の背後に菅総理の意向が働いているという見方があります。安倍氏が再び総理の座を狙い始めたので、菅総理が安倍氏の力を削ぐため、検察の捜査を後押ししている、あるいは黙認しているということは考えられませんか。 郷原:その点はよくわかりません。ただ、菅総理は予算委員会で日本学術会議やGOTOキャンペーンの問題を追及されていました。そうした中で前夜祭の問題が出てきたので、批判の矛先が菅総理から逸れた面もあります。  また、この問題によって菅政権がそれほどダメージを負わないことも、菅総理の関与を疑わせる一因になっていると思います。もちろん菅氏は官房長官として安倍氏を支えてきたので、無関係とは言えません。菅総理も「事実が違った場合は当然、私にも責任がある」と述べています。  しかし、菅氏が官房長官の立場で安倍事務所に事実関係を確認できるかと言えば、なかなか難しいと思います。そのため、菅総理の責任はどうしても限定的になるのです。  今回の問題をスクープした読売新聞にも不可解なところがあります。読売新聞の司法記者と話をすると、自分たちがこの問題を真っ先に報じたにもかかわらず、どうも安倍氏に同情的です。  とすると、読売の記事は司法クラブ主導というより、政治部主導で出されたものと見た方がいいかもしれません。そうであれば、そこに政治的意図が働いていたとしてもおかしくありません。
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強制捜査をしてもおかしくない事件
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月刊日本2021年1月号

【特集1】2021年、日本はどこへ向かうのか
【特集2】安倍晋三氏に議員辞職を勧告する
【種苗法改正 特別インタビュー】


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