―― 検察はどのように捜査を進めていくと見ていますか。
郷原:
公職選挙法と政治資金規正法の問題をわけて考える必要があります。
まず
公職選挙法に関しては、
立件の可能性は大きくないと思います。公選法が禁じる寄付行為の対象になるには、夕食会の参加者たちが安倍氏側からごちそうになったという認識がなければなりません。
しかし、参加者たちから「このパーティーは本来なら1万円相当だが、安倍氏側が5000円にしてくれたので、その差額分をごちそうになった」という認識をとることは難しいと思います。参加者の中には、人一倍パーティーの料理を食べ、安倍氏からごちそうになったと考えている人もいるかもしれませんが、そのような人物を特定することは困難です。
検察が狙っているのは
政治資金規正法違反だと思います。安倍氏側が意図的に夕食会の収支を隠していたことは明らかですから、こちらの立件は難しくありません。国会では昨年11月から前夜祭の問題が追及されていましたが、そのあとに提出された政治資金収支報告にも夕食会の収支は記載されていませんでした。きわめて悪質です。
これに対して、安倍氏側は、
秘書が安倍氏に虚偽の説明をしていたなどという子供じみた言い訳をしようとしていますが、とてもではないですが、秘書が単独で行ったこととは思えません。
先ほど述べたように、安倍氏は夕食会について、ホテル側が参加者から個別に飲食代金を徴収したという常識では考えられない説明をしていました。このような説明を安倍氏が一方的に行うとは考えられません。自分が説明したあと、ホテル側が否定するような事態になれば大変だからです。それゆえ、この時点で安倍氏はホテルと連絡をとり、補填の事実を把握していた可能性があります。
もっとも、安倍事務所や後援会の人たちは、安倍氏の関与を知っていたとしても、そのことを話すはずがありません。任意捜査には限界があります。それゆえ、
安倍事務所をめぐるカネの流れを明らかにするには、強制捜査をやるしかありません。
―― 各紙の報道によると、検察は政治資金規正法違反で安倍氏の秘書を略式起訴する方向だとされています。その場合、罰金刑となり、正式裁判は開かれない見通しです。
郷原: 報道を見る限り、
検察は安倍氏の秘書を略式起訴にし、事件の幕引きを図ろうとしているようです。
検察が本気で事件を解明しようと考えているなら、国会が終わる直前に安倍氏に任意聴取の要請をするといった話が流れてくるはずがありません。もうすでに強制捜査に着手しているはずです。
安倍政権時代、検察は政権の疑惑に対してきわめて甘い態度で臨んでいました。彼らは捜査すべき事件もまともに捜査してきませんでした。結局、
検察の体質はその当時からほとんど変わっていないということなのでしょう。
―― 「桜を見る会」前夜祭の問題が再燃するきっかけになった読売新聞のスクープは、検察からのリークだった可能性があります。リークによって世論操作を行うことは、決して許されることではありません。この点についてはどのように考えていますか。
郷原: 確かに読売の報道が検察のリークではなかったと言い切ることはできません。私はこれまで検察が捜査情報をリークし、世論誘導を行って強引に捜査を進めていくやり方を批判してきました。今回の件も検察のリークが行われたとすれば、問題がないとは言えません。
とはいえ、会費補填の事実は、安倍氏が国会などで追及を受けた際に、自ら進んで明らかにすれば済んだ話です。安倍事務所が本気でホテルに資料提供を求めれば、ホテル側が営業の秘密を理由に拒否することなどありえません。
安倍氏が首相として当然果たすべき説明を拒否したことが、そもそもの発端なのです。
それゆえ、仮に検察のリークがあったとしても、
検察がリークせざるを得ない状況を生み出したのは安倍氏自身です。この点がこれまでの検察リークとの大きな違いです。
もちろん検察と司法メディアの癒着の問題は、私はこれからも追及していきます。
―― 検察の捜査が秘書の略式起訴で幕引きになったところで、安倍氏が国会などで嘘をついたという事実は消えません。安倍氏の責任を徹底的に追及する必要があります。
郷原: 現在のような事態を放置していれば、日本はまともな国とは言えません。このまま事件を幕引きにさせないためには、
国民がもっと怒りの声をあげる必要があります。
もともと「桜を見る会」は、各界で功労・功績のあった人たちを慰労することを目的としていました。しかし、安倍一強が続く中で、「桜を見る会」は安倍後援会関係者たちの歓待行事に変質してしまいました。
「桜を見る会」の運営を担っていた内閣府や官邸の職員たちも、違和感を覚えていたはずです。しかし、安倍氏が強大な権力を握っていたため、異を唱えることができなかったのだと思います。そのため、大型バスで傍若無人に乗り込んでくる安倍後援会の行動を黙認するしかなかったのでしょう。
こうした「桜を見る会」の私物化の延長上で、前夜祭での違法行為が行われたのです。
しかし、安倍氏は国会で前夜祭の問題を追及されても、
嘘に嘘を重ね、違法なことはやっていないと開き直ってきました。周囲にいる官僚や政治家たちも安倍氏に忖度し、
安倍氏の言い訳を正当化してきました。安倍内閣は嘘に嘘を重ねただけの「
虚構内閣」だったのです。安倍氏のような人間が8年近くも首相の座に居座り続けたことは、悪夢そのものです。
検察の捜査は秘書の略式起訴で終わるかもしれませんが、
安倍氏には重大な道義的責任があります。そもそも秘書が略式起訴されること自体、深刻な問題です。安倍氏は議員辞職すべきです。
(12月3日、聞き手・構成 中村友哉)
<記事提供/
月刊日本2020年1月号>