データで見れば国民は我慢したのに再加速した日本の感染拡大。原因はアクセルとブレーキを同時に踏む防疫行政の愚

第3波が目に見えてきた日本

(Photo by Stanislav Kogiku/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

第3波エピデミックSurge再加速

 前回、破滅的な速度で増進中だった本邦における第3波エピデミックSurgeが、突然急減速し、その理由がGo To Eat Point(GTEP)ではないかという仮説を論じました。  残念ながらこの仮説については、統計の挙動しか証拠はありませんが、PCR検査新規陽性者*の行動履歴、接触履歴を追跡すればそれによって確実に分かることであって、防疫上の責任は厚生労働省(厚労省)にあります。そしてこれは、防疫のイロハのイです。 〈*抗原検査陽性者もPCR検査で確定検査され、PCR検査陽性の場合に感染者として診断される。これは、PCR法が感度100%、特異度100%でありCOVID-19確定診断のGolden Standardであるためである。付言するとPCR検査は人件費、減価償却費を入れても高く見積もって1人10ドル≒千円程度のコストと極めて安価であり、全世界の貧しい国でも大規模に行われている。〉  前回、気がついた方もいたと思いますが、「日本と韓国における100万人当たり新規感染者数の推移(ppm Raw DATA)2020/09/01-2020/12/09」というグラフを注意して読むと、横ばいから微減の推移をたどっていた本邦の日毎新規陽性者数が、12/6から12/9にかけて増加に転じていました。
日本と韓国における100万人あたりの日毎新規感染者数の推移(ppm Raw DATA 2020/09/01-12/16)

日本と韓国における100万人あたりの日毎新規感染者数の推移(ppm Raw DATA 2020/09/01-12/16)
比較のために台湾、中国、豪州(南半球)を加えている
OWID

 その後の推移を見ますと残念ながら12/7頃を起点に本邦の日毎新規感染者数は、増加傾向を再加速したと考えられます。日毎新規感染者数が2倍になる事に要する倍加時間は、11月末から12月初めにかけて1年近くに延びていたものが現在(12/16現在)では、45日程度まで加速しています。この傾向が続くと、12月中には倍加時間が30日以下に短縮される可能性があり、強い警戒を要します。

第3波エピデミックSurge再増進の原因は今年最後の3連休=「我慢の三連休」

 折角新規感染者数の増加率がゼロ近くまで下がっていたのが目に見えて再加速した理由はカレンダーを一見して分かります。12/7の2週間前は、11月最後の連休でした。  11/21〜11/23の連休に怖がりの筆者は、いつものように家に閉じこもっていました。この1年近く筆者が出かけるのは、人出のなくなった夜に限っています。まるでアリクイのような夜行性です。実は筆者は、学生時代に「夜の男」と呼ばれ、夜になると実験をしている(昼にはあまりいない)為に、ボスから、たまには昼にいてくれと頼まれていたような気もしますが、きっと気のせいでしょう。  さて、11/21〜23の連休中の賑わいは報道にとても詳しいです。ここにそのほんの一部をご紹介します。 ●“我慢の3連休”スタート 観光地の人出は… 2020/11/21 FNN ●“我慢の3連休”始まる 感染拡大の北海道に観光客 2020年11月21日 ANN ●“GoTo見直し”の中・・・3連休の観光地は人出増も 2020年11月22日ANN ●3連休の人出増 観光地で目立つ2020/11/24 日本経済新聞  このように11/21-23の三連休には、秋の紅葉を楽しむ観光客で各観光地がかなりの混雑になったようです。但し、報道やデータをよく読みますと、行楽地、繁華街、交通結節点では前日比でかなり混雑している場所が見いだされますが、前年同月休日比(昨年11月の休日と比較して)では、一部の例外を除き大幅に人流は減少しています。要するに、観光地には通常に比べれば多くの人混みが発生し、不特定多数の対人接触が発生していますが、例年比では相当に減少していたと考えられます。  これは内閣官房の公開している「全国主要駅・繁華街エリアにおける人流の動向」*からも分かります。 〈*11/2011/2111/2211/2311/24〉  報道では、「我慢の三連休」というスローガンを守らない愚民扱いされていますが、実際には例年に比べ市民は、相当に出控えていたことが分かります。そうであっても連休効果で観光地の移動傾向は、大きく増えています。結果としてその2週間後に統計上のCOVID-19新規感染者数が増加に転じたと考えられます。やはり個々人の努力に任せる「我慢の三連休」といった精神主義では、最早COVID-19には太刀打ちできないことがはっきりしたと言えます。
東京都区部の移動傾向

東京都区部の移動傾向
右から四つめのピークが11/21-23に該当する。東京都では連休中の移動傾向はやや増えている程度であり且つ自動車に偏っている。連休明け以降、移動傾向はやや下がっている
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京都府の移動傾向

京都府の移動傾向
右から四つめの大きなピークが11/21-23に該当する。シルバーウィークよりも増加は顕著であり且つ徒歩と公共交通の増加が目立つ。京都府では連休14日後からエピデミックSurgeが目立っており、移動傾向が低下し始めているが、全く不十分である
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広島市の移動傾向

広島市の移動傾向
右から四つめの大きなピークが11/21-23に該当する。広島市は、8月以降の移動傾向が高い。また、徒歩と公共交通の増加が目立つ。11月三連休明け以降の移動傾向が低下し始めているが、全く不十分である
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日本全体の移動傾向

日本全体の移動傾向
右から四つめのピークが11/21-23に該当する。連休後、移動傾向は下がっているが、全く不十分である
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 全国各地の移動傾向を見ても、市民の移動傾向は減少気味ではあるものの第3波エピデミックSurgeを収束に向かわせるには全く不十分です。結局「我慢の三連休」というスローガン防疫では、最早実効性に全く不足しているという事です。また、東京医師会長が「我慢の三連休」と呼びかけたのが連休直前の11/18ですし、同日、加藤官房長官は、事実上その呼びかけを否定*していました。 〈*加藤長官「移動自粛、必要ない」 医師会長呼びかけに 2020/11/18朝日新聞〉  アクセルとブレーキを同時に踏むというドシロウト運転が本邦の防疫行政では常態化していると言えます。
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サンクスギビングの大型連休を迎えていたアメリカでは……
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