この疑惑が発覚したのは、同じくスペインのワイン生産業者ではナンバーワン、世界ではナンバー4にランキングされている
ガルシア・カリオン(Garcia Carrión)社が、バルデペーニャスに進出するようになったからである。
ガルシア・カリオン社は、昨年の年商は9億7500万ユーロ(1170億円)、従業員1000名、ムルシア州のフミーリャで1890年創業し、現在までにラ・リオハ、リベラ・デ・ドゥエロ、ラ・マンチャ、トロでも生産している。日本で同社のワインで一番良く知られているのはパックに入ったドン・シモンである。
同社がバルデペーニャスに進出するようになったのは2006年に同地域のワイン生産業者ヴィナルティスのグループを買収してからである。このグループや他に4つの協同組合はフェリクス・ソリス社と同社の配下にある他3社が不正な販売をしていることを告発していた。しかし、バルデペーニャスの原産地呼称制度委員会を支配しているフェリクス・ソリス社と他3社の前では多勢に無勢であった。何しろ、同制度委員会の100票ある内のフェリクス・ソリス社とその配下にあるワイン業者が68票をもっており、ヴィナルティスのグループは30票しかない。
ところが、スペインの最大手ガルシア・カリオン社が同地域に進出したことによって事態に変化が見られるようになった。資金的にもゆとりのあるガルシア・カリオン社はフェリクス・ソリス社らの不正を法廷に提訴したのである。
ガルシア・カリオン社が訴えているのはバルデペーニャスの原産地呼称制度委員会が管理している裏ラベルに貼る細長い認定シールにこれまで「Tinto」と記載されているだけで他の地域の呼称制度と同様にこの認定シールにクリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバといったことも記載すべきだと主張。またヤングワインについてはそのビンテージも記載すべきだと要求したのである。
どういうことかというと、認定シールに「Tinto」とだけしか記載されていない場合は、呼称制度委員会ではその製造業者しか把握できないのである。つまり、そのあと各生産業者が個々に表のラベルと裏ラベルを作成してそこにクリアンサやレセルバと記載しても呼称制度委員会では分からないということなのである。仮にその認定シールにクリアンサやレセルバと記載を義務付ければ同委員会では各社でクリアンサやレセルバなどの生産本数を把握できる。だから不正にそれを偽った販売はできなくなるというわけだ。
これらの主張は、これまでも認定委員会の審議にかけていたが、何しろ過半数の票をもっているいるフェリクス・ソリス社らに反対されてその実行は拒否されて来たのである。
実際、電子紙『
El Economista』(6月26日付)はバルデペーニャス呼称制度委員会自体は、販売されたクリアンサのワインの半分は不正に販売されていたと認めたと指摘している。即ち、最低24か月の熟成期間を経過させていないのにクリアンサとして販売されていたということを同委員会が認めたのである。
その裏付けとなっているのは、例えば2019年度だと
クリアンサとして熟成されていたのは1590万リットルであると同委員会の方に集計登録されていた。ところが、実際に
クリアンサとして市販されていたのは2970万リットルということが明らかになっている。即ち、この両差のおよそ1400万リットルがクリアンサとして熟成登録していないのにクリアンサとして市販していたことになる。因みに、同年の生産量は4740万リットリと登録されている。この内の輸出に向けられたのは1880万リットル。国内向けが2860万リットル。国内向けの多くはバルクとして他地域のワイン生産業者に販売されているはず。この輸出された1880万リットルの中にはクリアンサと偽ったワインも勿論輸出されたということだ。