テーマをジャーナリストが受ける脅威という点に戻すと、2年前の2018年9月の地元電子紙『
Animal Político』がメキシコでは10人のジャーナリストの内の8人が脅迫を受けた経験があることを指摘している。だから、事実を隠すことなく報道するということに困難を伴うことが多くあると指摘している。隠すことなく報道するという行為は自らの死を意味するようになる可能性があるからだ。脅迫には電話、ワッツアップでのメッセージなどを介して知らせて来るそうだ。
電子紙『
Niusdiario』(11月26日付)によると、2018年12月にアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)が大統領に就任して以来現在まで38人のジャーナリストが暗殺されているそうだ。
その内の6人は「ジャーナリストを守る人権保護組織」に加盟していた。現在までこの組織に加盟しているジャーナリストは798人いると報じている。
しかし、この組織への予算は十分ではなく、加盟者を十分に保護できていないのが現状だという。だから、それぞれジャーナリスト自身が注意して行くしかない。しかも、アムロは就任してからそれまでの大統領と比較してカルテルや犯罪グループへの取り締まりを緩めた。彼らへの取り締まりを緩める代わりに彼らの方で自主的に無用な犯罪を避けるように対話を強調しようとしたからである。しかし、犯罪グループにそのような方針を示しても彼らは逆にそれを悪用して犯罪をますます過激化させていった。それに気づいたアムロは軍隊と警察から優秀な隊員を募り、彼らのを給与も上げて編成した防衛隊を組織したが、まだその組織力は十分に発展しておらずカルテルらとの戦いにも十分な成果を挙げていないのが現状だ。
メキシコのもう一つの問題は犯罪が起きてもその証拠を集めることが容易ではなく、公判に持ち込めない、あるいは公判になっても証拠不十分で容疑者が処罰されないというケースが8割以上あるということだ。
イグアラ市で2014年に起きた43人の学生が失踪したという事件について証拠不十分で未だに公判を開くことができないでいる。これには同市の当時に市長そして警察がこの事件の犯罪に絡んでいるのは明白だとされているが、6年経過した今もそれを裏付ける証拠が揃わない状態のままである。
<文/白石和幸>