11月時点で19人が暗殺! メキシコのジャーナリストにとって2020年は最悪の年となった

資金不足のジャーナリスト人権保護組織

 テーマをジャーナリストが受ける脅威という点に戻すと、2年前の2018年9月の地元電子紙『Animal Político』がメキシコでは10人のジャーナリストの内の8人が脅迫を受けた経験があることを指摘している。だから、事実を隠すことなく報道するということに困難を伴うことが多くあると指摘している。隠すことなく報道するという行為は自らの死を意味するようになる可能性があるからだ。脅迫には電話、ワッツアップでのメッセージなどを介して知らせて来るそうだ。  電子紙『Niusdiario』(11月26日付)によると、2018年12月にアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)が大統領に就任して以来現在まで38人のジャーナリストが暗殺されているそうだ。  その内の6人は「ジャーナリストを守る人権保護組織」に加盟していた。現在までこの組織に加盟しているジャーナリストは798人いると報じている。  しかし、この組織への予算は十分ではなく、加盟者を十分に保護できていないのが現状だという。だから、それぞれジャーナリスト自身が注意して行くしかない。しかも、アムロは就任してからそれまでの大統領と比較してカルテルや犯罪グループへの取り締まりを緩めた。彼らへの取り締まりを緩める代わりに彼らの方で自主的に無用な犯罪を避けるように対話を強調しようとしたからである。しかし、犯罪グループにそのような方針を示しても彼らは逆にそれを悪用して犯罪をますます過激化させていった。それに気づいたアムロは軍隊と警察から優秀な隊員を募り、彼らのを給与も上げて編成した防衛隊を組織したが、まだその組織力は十分に発展しておらずカルテルらとの戦いにも十分な成果を挙げていないのが現状だ。  メキシコのもう一つの問題は犯罪が起きてもその証拠を集めることが容易ではなく、公判に持ち込めない、あるいは公判になっても証拠不十分で容疑者が処罰されないというケースが8割以上あるということだ。  イグアラ市で2014年に起きた43人の学生が失踪したという事件について証拠不十分で未だに公判を開くことができないでいる。これには同市の当時に市長そして警察がこの事件の犯罪に絡んでいるのは明白だとされているが、6年経過した今もそれを裏付ける証拠が揃わない状態のままである。 <文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会