2020年の女性たちに勇気を与えたシスターフッド映画11選

6:『チア・アップ!』

 平均年齢72歳というおばあちゃんたちがチアリーディングに挑むという内容だ。のんびりと余生を過ごそうとしていた主人公がおせっかいな隣人にたきつけられ、メンバーのオーディションを開催したところ、集まったのはチア未経験どころか、腕は上がらない、膝は痛い、はたまた坐骨神経痛持ちだった……という、とんでもない立ち上がりとなっている。  おばあちゃんたちのケガや健康について不安になってしまいそうなところだが、物語としては完全に王道のスポ根ものであり、素人だったメンバーが大きな壁に直面し、いったんは挫折をするも、新たな可能性を見つけて一致団結をし、そして無謀な挑戦に挑むという、むしろ安心して見られる内容になっている。彼女たちの「年齢なんて何のその!」なバイタリティを目の当たりにすれば、誰もが「何かをやってみようかな」とチャレンジをする勇気がもらえるだろう。

7:『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

 学校生活を勉学に捧げてきた女子高生が青春を取り戻すため、リア充たちのパーティに突撃!という過程を追った青春コメディだ。目的地にたどり着くまでの(下品なギャグ込みの)様々なイベントはそれだけで面白く、レズビアンの親友の恋を“当たり前”に応援しているということが見ていて心地よい。単にリア充だと思われていたクラスメイトたちが、複雑な人間性を持っていることが徐々にわかっていくということもポイントだ。  はっきりとLGBTQや多様性を意識した、しかし「大げさにしない」ことが、最先端であり理想的な描き方であると実感できた作品でもあった。ちなみに、途中で登場するムチャクチャな性格の金持ちの女の子を演じたビリー・ラードは、『スター・ウォーズ』シリーズのレイア姫役で知られる故キャリー・フィッシャーの娘であったりする。キャリーが『ブルース・ブラザース』で演じていた破天荒なキャラが、そのまま娘に引き継がれたような感動もあった。 【もっと詳しく】⇒米批評家も大絶賛の青春コメディ映画『ブックスマート』に学ぶLGBTQと多様性の描き方

8:『82年生まれ、キム・ジヨン』

 韓国の社会で生きる平凡な女性の生きづらさを描き、ベストセラーとなった小説の映画化作品だ。結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われた女性がうつ病になり、いつしか「他人が憑依した」かのような言動をするようになってしまう。大きな事件が物語を引っ張るわけではない、極めて淡々と展開していく内容だが、そのことがむしろ「小さなことの積み重ねが女性を苦しめる」という普遍的な事実を教えてくれている。  劇中では、日常的かつ“当たり前”に口にされる、女性への差別的な言動がそこかしこにある。妻のことを心から心配する、まともで優しそうに見える夫でさえも、無神経で浅薄な考えを持っていたりする。男性こそ、「自分もパートナーや身近な誰かを傷つけてはいないか」と襟を正せる内容だろう。解釈が分かれるであろう結末は、ぜひ一緒に観た人と話し合ってみてほしい。

9:『パピチャ 未来へのランウェイ』

 世界中から称賛されるも、アルジェリア本国で上映中止の憂き目に遭ってしまった作品だ。紡がれているのは、イスラム原理主義による女性弾圧が行われていた時代に、ファッションデザイナーを志す女子大生の物語。序盤の大学構内で起こる出来事をはじめとして、劇中の理不尽な状況は信じがたいものがあるが、これは1990年代に現地の女子学生たちが日常生活で体験していたことそのままだったのだという。  主人公が直面するのはとてつもない悲劇であり、その後も簡単な道は用意されていない、かなりハードな内容となっている。だが、どん底からの一縷の希望を描くからこその、女性への慈愛のメッセージが確かにある。自由を渇望し、不当な迫害に抵抗し、何よりも自らのために立ち向かう女性たちの力強さを、ぜひ見届けてほしい。 【もっと詳しく】⇒世界中から称賛されるも本国で上映中止。『パピチャ 未来へのランウェイ』で描かれた、現実にあった女性弾圧

10:『ウルフウォーカー』

 ハンターを父に持つ少女が、人間とオオカミがひとつの体に共存している不思議な女の子と出会うことから始まる物語だ。製作スタジオの“カートゥーン・サルーン”は、これまでの長編作品3本全てがアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされるなど高い評価を得ており、今回も躍動感のあるアクションシーン、豊かなキャラクターの表情、美しい背景描写など、そのクオリティは折り紙付きだ。  本作の悪役は男性社会の権威主義的な価値観の体現者であり、植民地にされていたアイルランドの過去も作劇に反映されている。そこからの「女性の解放」を描くという、明確なフェミニズムのメッセージを備えていた。そのような社会派の一面、歴史的背景を示しつつも、子どもが観ても存分に楽しめるエンターテインメントになっているのが見事だ。なお、12月11日よりApple TV+で配信されている。

11:『魔女見習いをさがして』

 こちらは現在公開中のアニメ映画であり、1999年から4年間にわたって放送された女児向けアニメ「おジャ魔女どれみ」の派生作品だ。子どもの頃に「おジャ魔女どれみ」を観ていたという共通点を持つも、年齢も、住む場所も、悩みも全てが違う3人の大人の女性が不思議な巡り合いで、共に“聖地巡礼”出かけたり、人生の転機を迎える様が描かれている。  ファン向けの内容に思えるところだが、その実「おジャ魔女どれみ」を全く知らなくても楽しめる。男性に頼らず自立をしていくという女性観は現代的であるし、SNSの炎上およびその付き合い方などの身近な問題も提示されたりする。現実には存在しない“魔法”の解釈も、実に感動的なものになっていた。少しでも“オタク”であるという自覚があったり、はたまた好きなアニメや映画について話すことが喜びだ、という方にとっては、きっと大切な作品になるだろう。

まとめ

 今は、ハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラ騒動による#MeToo運動の広がり、女性や人種マイノリティーなどを積極的に起用することなどを条件とするアカデミー賞の新基準の設立など、多様性やフェミニズムの観点を、作り手側も意識する時代になっている。これらのシスターフッド映画は、その時代の変化の流れに沿った結果として生まれたところもあるのだろう。  また、これらの作品では、女性が独りのままではなく、女性たちが共に助け合い、そして目指すべき道を見つける様が描かれている。悩みを打ち明けたり、話し合ったりすることもまた、現実での問題解決の足がかりとなるはずだ。  さらに、12月18日からは女性がまさにヒーローとなって活躍する『ワンダーウーマン1984』、2021年1月8日からはハリウッド映画を支えてきたスタントウーマンにスポットを当てたドキュメンタリー『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』が公開される。  強い女性の姿を描く作品は、さらに世に送り続けられているのだ。コロナ禍の苦しい状況は続いているが、ぜひこれらの映画に触れて、男性も女性も勇気や希望を、はたまた現実にフィードバックできる学びを得てみてほしい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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