投資家に配布された資料。契約時に30万~50万円がもらえ、かつ7年間にわたって広告報酬や貸し出しによる配当が受け取れると謳っていた
このカーシェア投資は、ビジネス系のコミュニティやSNS、友人・知人を通して知り合った運営関係者と中古車の売買契約をし、その管理をS社の関連会社に託すというのが一般的な流れだった。しかし、投資家たちが手にした契約書は別の関連会社のもので、カーシェアの広告宣伝を依頼する業務委託の契約書のみ。にもかかわらず、毎月のローン相当額はS社から振り込まれるという不可解なスキームだった。
今回のカーシェア投資の問題点について被害者の代理人である加藤博太郎弁護士はこう話す。
「今回、
低収入の若年層に大きな借金を背負わせているのが問題点のひとつ。契約時に渡す数十万円の報奨金を餌に、投資経験の乏しい若年層をターゲットにしたのでしょう。2つ目の問題点は
関連会社が多数あり、お金の流れが非常にわかりづらいこと。そこに相手側の思惑があるのですが、被害者のほうも全体の仕組みを理解できず、結果的に契約書の不審な点にも気づきにくいのです」
ある投資家のローン申込書。車両本体価格は423万円で月々の支払額は約8万円(84回払い)。書類上の年収は600万円だが、これは水増しされていた。多くの場合、金利は4~8%台と高かった
契約時に投資家はS社に言われ、若年層にはあり得ない高い年収を偽って記載していた。自動車ローンの融資を行っていた信販会社はプレミアとアプラスが多かったが、在籍確認もほとんどされず、杜撰な貸し付けが行われていた形跡がある。
「シェアハウス投資で騒動になった『かぼちゃの馬車問題』が起こり、不動産ローンの審査は現在、厳しくなったのですが、車のオートローンはまだ審査が甘かったので狙われてしまったのでしょう。収入に見合わない高級車を若年層にローンを組ませて売る仕組みがあったという部分において、
信販会社に社会的責任はあると思います」(加藤氏)
加えて、昨今の投資詐欺によく用いられる「紹介制」がカーシェア投資でも使われた。紹介者には10万~15万円の報酬が支払われるため、結果的に被害者が詐欺に加担してしまう構図となり、騒動を一層複雑にしているのだ。
S社が破産した今、被害者はとにかく自分がローンを組んで買った高級車をまず取り戻さなければいけない。破産手続開始決定の直前、投資家たちが川口市内の駐車場に集結。S社の代理人弁護士に対して怒号が飛び交い、大混乱となる場面もあった。今もほとんどの被害者は車が戻らない状態だが、なぜこんなことが起きるのか。
「私の車は長期で貸し出し中になっているのですが、
どうやら又貸しされているんです」
こう話すのは高級ミニバン・ヴェルファイアのオーナーであるYさん(32歳)だ。投資家同士のつてを辿って、ようやく貸出先リストを持つS社の内情に詳しい事情通と出会い、貸出先の電話番号と名前を入手したYさんだったが、その事情通からこう忠告されたと言うのだ。
「『あなたの車は現在、
反社の人が使っている可能性があるから、連絡しないほうがいい』と。これはもう脅しに近いですよね」
一方、自分の車が貸し出されるときに何度か立ち会ったという別の被害者もこう証言する。
「受け渡し場所は池袋や新宿の駅のロータリーが多かったですね。受け渡し役のドライバーは歯の抜けたアジア系外国人や40代くらいの日雇い労働者風の男性でした。車を借りていった人も、
完全にカタギではない、半グレのようなオラオラしたタイプの人でした」