維新の吉村洋文大阪府知事と松井一郎大阪市長(右) 写真/時事通信社
―― 在阪ジャーナリストの西岡さんは、大阪の視点から権力とメディアの問題をどう見ていますか。
西岡研介氏(以下、西岡): 大阪都構想をめぐる報道では、
維新・大阪市が不都合な報道を潰そうとする政治介入が行われました。第二次安倍政権以降、
権力による言論統制、言論弾圧が強まっていますが、大阪ではそれが端的に表れています。
象徴的なのは、
大阪毎日新聞の報道をめぐる動きです。大阪都構想は11月1日投開票でしたが、大阪毎日は10月26日夕刊と27日朝刊で、「
大阪市4分割ならコスト218億円増 都構想実現で特別区の収支悪化も」という記事を掲載しました。大阪市を4つの自治体に分割した場合、毎年必要なコストの合計が218億円増えることが大阪市財政局の試算で明らかになったという衝撃的な内容でした。投開票直前の大スクープです。他の新聞テレビも一斉に後追い報道を行い、大阪は大騒ぎになった。
維新・大阪市側は直ちに火消しに走りました。27日の夕方には大阪市財政局長と副首都推進局長が記者会見を開いて、「誤解と混乱を招く結果となった」「特別区設置のコスト増とは全く関係ない」と釈明しました。同日夜には松井一郎市長も会見を開き、不満を表明しました。
ポイントは、
大阪都構想は大阪市を廃止して4つの特別区を設置する構想だということです。そのため、財政局の試算は「大阪市を4つの自治体に分割した場合」の数字であり、「大阪市を廃止して4つの特別区を設置した場合」の数字ではないため、そもそも都構想の試算として成立しないと〝反論〟したわけです。
ただし、財政局長は「
取材内容をきちっと書いてある」と、毎日新聞の報道は肯定していました。ところが、29日に再び開いた記者会見では「218億円は虚偽と認識した」と
態度を一変させた上で「誤った考えに基づき試算し、誤解を招く結果になった」と謝罪しました。会見前に面会した松井市長から「架空の数字を提供することはいわば捏造だ」などと厳重注意をうけ、「市長の指摘を受けて捏造だと認識した」と、態度を一変した理由を述べました。
この財務局長の会見内容を知った時、私は「何や、これは……」と絶句しました。要するに、
松井市長が財政局長を恫喝して、報道の根拠である財政局の試算を「捏造」として全否定させたということです。しかし、これは
取材報道の在り方を根底から覆すものです。
取材報道では記者が現場からネタを聞き出して記事を書きます。しかし後から権力を背景にネタ元をひっくり返されたら、報道そのものが根拠から崩れる。その結果、正しい報道がフェイクニュースに作り変えられることになる。今回も財政局長が「虚偽だった」と謝罪したことから、「メディアは『虚偽』を見抜けずフェイクニュースを報道した」という批判が起きました。こんな〝
後出しジャンケン〟をされたら、報道など成り立たちようがない。
維新の10年、安倍政権の8年で齎された「失われた10年」
―― こういう報道の潰し方は、安倍・菅政権にも共通しています。
西岡: 安倍政権は
森友・加計・桜の問題でどれだけ証拠を突きつけられても強気で否定し、その裏では
官僚を恫喝して公文書を改竄させたり破棄させたりしていました。その結果、森友問題では
近畿財務局の職員が自ら命を絶つ事態まで起きたのです。加計問題では「総理の意向」を記した文書が出た時、菅義偉官房長官(当時)は「怪文書」と切り捨てた上で、「本物」と認めた前川喜平元文科次官を「地位に恋々としがみついていた」と人格攻撃をし、
文書が「本物」だと確認された後も撤回しなかった。
菅氏も松井氏と同じように、
報道の根拠を否定することで、報道そのものを根こそぎ打ち消そうとしているということです。ガサツか陰湿かの違いはありますが、維新や安倍・菅政権の〝報道の潰し方〟は同じです。やり方が違うだけでやっていることは同じだということです。
橋下、松井、安倍、菅の4氏は毎年、年末に会合を行っていますが、維新と安倍・菅政権のメンタリティは似通っています。
10年間の維新、8年間の安倍・菅政権の恫喝政治、恐怖政治は役所やメディアを腐らせ、大阪と日本に「失われた10年」をもたらしたと思います。