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菅首相のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略
菅義偉首相は、社会のデジタル化、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)を政権の最重要課題としています。2020年10月26日の所信表明演説では「各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進めます。今後5年で自治体のシステムの統一・標準化を行い、どの自治体にお住まいでも、行政サービスをいち早くお届けします」と述べています。
それを
主たる経済政策と位置づけ、デジタル庁を新設する予定です。9月30日の
内閣官房デジタル改革関連法案準備室への訓示では「行政の縦割りを打破し、大胆に規制改革を断行する。正に新しい成長戦略の柱として、我が国の社会経済活動を大転換する改革」と述べ、2021年1月からの通常国会にデジタル庁設置法案を提出するとの方針を示しました。
菅首相の
DX戦略の具体策は、マイナカードの普及、小中学生へのIT端末の普及、押印の廃止の3つです。所信表明演説で「マイナンバーカードについては、今後2年半のうちにほぼ全国民に行き渡ることを目指し、来年3月から保険証とマイナンバーカードの一体化を始め、運転免許証のデジタル化も進めます」「全ての小中学生に対して、1人1台のIT端末の導入を進め、あらゆる子どもたちに、オンライン教育を拡大し、デジタル社会にふさわしい新しい学びを実現します」「行政への申請などにおける押印は、テレワークの妨げともなることから、原則全て廃止します」と述べています。
デジタル庁の新設やこれら3つの具体策が適切かどうかはさておき、
菅首相のDXに対する強い意気込みは伝わってきます。11月10日には、閣僚会議の下に置かれ、担当大臣と有識者で構成する「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」に
出席するほどの力の入れようです。
デジタルとは、情報を0と1で示すことです。「ASCII.jpデジタル用語辞典」は「情報を0と1の数字の組み合わせ、あるいは、オンとオフで扱う方式。数値、文字、音声、画像などあらゆる物理的な量や状態をデジタルで表現できる」と解説しています。
デジタルの対義語は、アナログです。「精選版日本国語大辞典」は「数値を長さ、角度、電流といった連続した物理量で示すこと。文字盤の上に針で時を示す時計や、水銀柱の長さで温度を示す温度計は、この方式に基づく」と解説しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、情報のデジタル化を通じて、組織や事業のあり方を変革することです。既存の組織や事業のあり方を前提とし、そこにIT(情報技術)設備を導入するIT活用とは、その点が大きく異なります。具体的には、
情報の即応性や正確性というデジタルの特性を用いて、意思決定や組織文化、事業目的、過程をすべて見直すことです。
DXの観点からすれば、菅首相自身はデジタル化から遠ざかる一方です。例えば、2020年10月29日の参議院本会議において、菅首相は日本学術会議に関する質問に対して「
お答えを差し控えます」と述べました。答弁拒否の理由は「人事に関すること」とし、法的な根拠に基づいていません。
事前に決められたルールに基づかず、裁量で応答したり、しなかったりすることは、反デジタル的な行為です。
第2次安倍政権以降、首相や大臣による答弁拒否が増えています。
立命館大学の桜井啓太准教授の調べによると、答弁拒否(お答え差し控える)の数が近年、急増しているそうです。過去3年間の平均は、年500件にも上り、内容も「
モリカケ桜だけでなく、政策全般で見られた」とのこと。
議院内閣制では、国会議員の質問に内閣が誠実に答えるという関係がもっとも重要です。議員から尋ねられたことに真正面から答えることで、内閣は正統性を示します。答えない場合も、法的根拠あるいは合理的な理由を示さなければなりません。
DXには、
デジタル化を通じて、曖昧な意思決定や組織文化を変革することが含まれます。それによって、学習する組織とし、より精度高く、素早く目的を達成するわけです。その際、デジタル設備を活用することで、それが可能となります。
以上から明らかなことは、
菅首相自身がDXに反する言動を取り、アナログでファジーな議院内閣制を追求していることです。少なくとも、菅首相がDXを理解しているのか、疑わざるを得ません。