熱帯雨林破壊、児童労働、温暖化促進etc.「持続可能」とはとても言えないパーム油利用の闇

一生抜け出すことのできない“緑の監獄”

ヤシ油の精製工場。一年中稼働するためには市町村一つ分のプランテーションを必要とする

ヤシ油の精製工場。一年中稼働するためには市町村一つ分のプランテーションを必要とする(著者撮影)

 その広大な油やしプランテーション内に暮らしていては、学校に行くことが物理的に無理なのだ。彼らの村で聞いてみると、働く人たちは「子どもは学校に行かせたいと思っているよ、でも今の給料じゃとても通わせられないんだ」と答えていた。彼らはさらに、「子どもにも働いてもらわないと経済的に無理だ」と何度も言った。  すると子どもたちは教育を十分に受けていないので、大人になっても他で働くことは困難になる。すると彼らは結局これまで働いたことのあるプランテーションで働き、同じプランテーション内の誰かと結婚し、そこで次の世代を作る。  その世代もまた同じだ。街からさほど遠くないプランテーション内にいて、世代を超えて街に出たことがない人たちがいた。これを称して「“緑の監獄”だ」と彼らは言う。プランテーションの外へ出られる可能性が低いまま、一生働き続けなくてはならない。  労働者の中には、マレーシア国籍の人もいた。ただし彼らの多くは、他で働くことが困難な先住民の人たちだった。彼らも、“緑の監獄”に閉じ込められるように暮らしていた。 「野菜だけでも育てたらどうか」と聞いてみると、プランテーション内では耕すことが許されないのだという。 “緑の監獄”では、上司たちが海外から来ている私たちのことを監視していた。一見労働者と親しくしているようでも、彼らとは立場が違う。労働者たちも、彼らがいるとうかつなことは言えない。人柄が良く、親切にもしてくれたが、その監視の中での毎日は重く暗いものだった。

再生可能エネルギーを潰す「バイオマス」の虚構

アブラヤシプランテーション その油やしを原料としたパーム油が、今や日本で新たなバイオマス発電として広がろうとしている。「バイオマス」とは、「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源(石油などの化石燃料を除く)」のことだ。確かに有機物なのだが、これを広げていいのか疑問が湧く。そもそも最大の疑問は、これを使ったからといって地球温暖化防止のためになるのかという疑問だ。  ぼくは岡山県に住んでいるが、必然的に中国地方のニュースが多い。ニュースを見ていたら、鳥取県境港市にバイオマス発電所が建てられることになり、起工式が行われたと聞いた。しかしバイオマス発電(パーム油発電所)といえば、先日やっと仙台で中止されたり、京都府舞鶴市で中止されたりしたばかりではないか。それがうまくいかなかったため、遠く離れた中国地方でやろうとするのかと思った。  テレビで「境港市」と聞いたのでネットで調べてみた。すると何社も出てくる。臭いや騒音、振動があるのに、鳥取県では大丈夫ということか。同じところに数社が、何基も発電所を建てるようだ。しかもどれもFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)目当て。高い固定価格で買ってもらえるから、安心して進めているのだ。  しかも「容量市場」(将来の供給力を取引する市場)も間もなくお目見えする。ということは、発電した電気もさらに高く買ってもらえるチャンスになる。太陽光や風力などは安定しない発電量だから、安定的に発電して電気を補完するための「発電容量」の分だけ建てようとする。その発電所の費用は、送電線を利用する者に負担させようという仕組みだ。  具体的にその電気料は新電力の会社が支払う。新電力は「再生可能エネルギー」で電気を供給しようとする会社が多いから、明らかな「再生可能エネルギー潰し」として導入されようとしている。  そのパーム油発電所は、やしの外殻や油を抜いた後の残滓から作るというのだが、それをFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)を利用して売るのだから、FITの仕組みが「再生可能エネルギー」を潰すということになる。敵のくせに、味方の顔をして近づいてくるのだ。
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パーム油発電は、地球温暖化対策とはいえない
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