オカルト歴史が「日本遺産」に!? 全国に広がる「偽史」町おこし
長野県上田市には「太陽と大地の聖地」があった! 熊本県人吉市は風水で設計された都市! 福岡県赤村に大山古墳(仁徳陵)を越える大きさの卑弥呼の墓が!――――。
学研のミステリー雑誌『ムー』が好んで扱いそうなトピックスだ。娯楽雑誌やその手のムックで「嘘かマコトか」と取り上げるのなら罪がない。でも、こんなことを行政や関連組織が「これが我が町の真実の歴史」と宣伝を始めたら。それは完全にトンデモ、いや、歴史修正主義である。
そんな「町おこし」が全国各地に増えている……。
文化庁が行っている「日本遺産」という事業がある。2015年から始まった制度で各地の文化財をテーマごとにまとめて、従来とは違う形で発信して観光にも役立てようというものだ。文化財そのものの価値を認定するのではなく文化財を元に各地の自治体などが考案した「ストーリー」を認定するというものだ。
現在までに認定された日本遺産は104ある。
鹿児島県内に残る武家屋敷をベースにした「薩摩の武士が生きた町〜武家屋敷群「麓」を歩く〜」。古くからの巡礼路を利用した「1300年つづく日本の終活の旅〜西国三十三所観音巡礼〜」といったものがある。
認定にあたっては「歴史的経緯や地域の風土に根ざし世代を超えて受け継がれている伝承、風習等を踏まえたストーリーであること」などの条件がある。
ところが、今年6月に新たに認められた日本遺産に奇妙なものがあった。長野県上田市が応募した「レイラインがつなぐ「太陽と大地の聖地」~龍と生きるまち信州上田・塩田平~」である。
この日本遺産を説明する上田市の公式サイトには、こんな文章が並んでいる。
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山のふもとにある信州最古の温泉といわれる別所温泉、「国土・大地」を御神体とする「生島足島神社」、「大日如来・太陽」を安置する「信濃国分寺」は、1本の直線状に配置され、レイラインをつないでいる。
生島足島神社は夏至には太陽が東の鳥居の真ん中から上がり、冬至には西の鳥居に沈む。太陽と大地は、この神秘的な光景をレイラインとして現代に遺した。
生島足島神社から、別所温泉までの軌道は、不思議なことにレイラインと一致する。
そして、駅をつなぐ線路は、空からみると龍のかたちをしていると言われる。
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レイライン(ley line)とは1921年にイギリス人のアルフレッド・ワトキンスが提唱して以来、世界で信奉者の絶えない仮説である。古代の遺跡群や信仰の対象はなんらかの意図をもって直線で結ばれるようにつくられているというものだ。日本では島根県の出雲大社から千葉県の玉前神社まで春分と秋分の太陽の動きに沿って直線に結ばれているとか、近畿地方の古くからの神社を結ぶと五芒星ができるとするものだ。
もちろん、学術的な裏付けはなにもない。なにしろ任意の神社仏閣に線を引けばいくらでもこじつけができる。だいいち、世界のどこにも、直線で結ぶ意図を持って神社仏閣をつくったというような歴史史料は発見されていないのである。
あくまで「古代のミステリー」と称して楽しむならば問題はない。ところが、これが文化財の魅力を発信するハズの日本遺産に認定。それも上田市での担当部署は、地域の歴史や文化財の知識を市民に知らせる生涯学習・文化財課の文化財保護担当である。
もしかして、上田市には世界初のレイラインを裏付ける史料が発見されているのか?
文化庁が認めてしまった上田市のトンデモ聖地
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