性的なことに嫌悪すらあるという大江さんだが、恋愛の先にある「結婚」には興味があるという。
「一人が好きだし、一人暮らしが向いていると思っていました。でも最近は、一生一人で過ごすのはつらいかもと思うようになった。一人の生活は自由だけど、やっぱり結婚した方が、社会的に認められやすいとは思うんです。自分でもなんとなく、一生独身の生活には宙ぶらりん感を感じる。人生の就職先が決まる安定感がほしい」
結婚に関しては恋愛的要素を取っ払った、実利的なメリットに魅力を感じているような語り口だ。今の時代、恋愛に重きを置かずとも、適切な探し方さえすれば結婚することもできるような気がする。しかし……。
「出会いはありませんが、結婚相談所のような結婚を目的にするための場所で相手を探すのには違和感を覚えます。恋愛にしろ、結婚相手にしろ、あくせくして探すようなものではないし、どこか運命的であってほしいと思ってしまう」
恋愛には興味がない、諦めていると言いながらも、深掘りしていくとロマンチストな側面も見える。スペックはありながらも、女遊びもせずに童貞を守り抜いてきた彼。口では「自分は恋愛に向いていない」と言いながらも、いざするとなればそこには期待があるのだ。
日本には疑似恋愛コンテンツが世に溢れているし、テレビやマンガで気軽に触れるものほど、プラトニックで運命的だ。そんなものを小さい頃から見ていれば、誰でも恋愛に期待してしまう。現実の恋愛を知らないなら、なおさらなのだ。
周りからも「早く童貞を捨てろ」と野次を飛ばされることも多いという。はたから見ると彼は早く童貞を捨てた方が幸せになれるように見えるのだろう。
「実際に童貞いじりされてみると、傷つく瞬間もある。自分ではあまり気にしていないつもりだけど、やっぱりどこか欠如感を感じるんだと思います。普通の人にできることが、自分にはできないから」
童貞でなくなれば、彼は変わるのかもしれない。しかしそれは、一夜だけを共に過ごすような相手でなく、彼にとって運命的な相手でないといけない。その理想の高さが、彼のことを苦しめている。
自己肯定感の低さと、自信のなさ。女性なら、この要素を持っていても性行為の機会はあるし、むしろ恋愛体質になったりする。しかしこれが男性になると、途端に拗らせる。世の中で求められるであろう「男らしさ」から逆行していることが、より本人の自信を喪失させる。
世の中の全ての女性が男らしさを求めているわけではないとしても、現場経験がないからこそ、彼らは女性に好まれるのはよりステレオタイプな男性であると思い込んでしまうのだ。そしてそうではない自分を責めて、恋愛を遠ざける。
「結婚という『内定』はほしいけれど、努力して勝ち取りに行こうとは思えないんです。結婚できなくても死なないし」と彼は悟り顔で語る。でもその実、恋愛にも結婚にも、彼なりの期待や理想があって、その上で「自分はその理想にかなわない」と自己卑下している。彼の場合頭がいいからこそ、そういう自分をより客観的にとらえてしまい、人に言われる前に「恋愛には興味がない」というシールドを張っているようにも見えた。
恋愛も結婚も、普通に人と関わっていく中ではなかなか避けて通りづらいトピックではある。その世間からの目そのものも日本の生きづらさの一つではあり、そこにさらされ続ける限り、自己肯定感が低い人の未婚の人生は、つらい選択となってしまうのかもしれない。
<取材・文/ミクニシオリ>
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携ったのち、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。