通貨の切り下げ、GDPの後退、インフレの上昇などの影響を良く反映しているのが貧困者の増加である。
マウリシオ・マクリは貧困層の撲滅を改革の主要政策の一つとして掲げ大統領になったが、彼の政権下では逆に貧困者が増えるという皮肉な現象を生じさせた。彼が政権に就いた折り返し時点の2017年の貧困層は、同スペイン紙によると、25.7%であったのが、彼が政権を終える時点で35.5%まで上昇したのである。そしてコロナパンデミックの影響で40.9%まで増加。即ち、
アルゼンチン国民の半分近くが現在貧困層にあるという事情を抱えるようになっている。
このようなアルゼンチンの経済的問題は戦後から継続している。一時的に経済は回復するが、それは断続的なもので長期にわたって経済が成長するということがない。ペソの切り下げ、これまで8回のデフォルト、高いインフレといったことの繰り返しである。
その根本にある問題は、外貨の不足とそれに伴う国民の自国通貨ペソへの信頼がまったくないということである。それに産業化への取り組みが消極的で産業が発展しても労働組合や一次産品の企業家がその成長を阻む。それに政治家の汚職などによる腐敗が蔓延。これらのマイナス要因が重なって現在のアルゼンチンが存在している。
20世紀初頭には世界の食糧倉庫となって世界のリーダー国の一つに飛躍していた。しかし、1930年代以降は一時的に成長はしたもののこれらのマイナス要因の繰り返しでそれ以後成長が止まっているというのがアルゼンチンである。
現在のアルゼンチンの最大の問題は外貨が常に不足しているということである。それには輸出が必要であるが、アルゼンチンのGDPの規模は世界24位であるのに輸出のGDPに占める割合は14.5%でしかないということで世界ランキングで191カ国の中で130位となっている。輸出品目は食肉や穀物など一次産品が主体で加工品の輸出が非常に少ない。だから稼ぐ外貨も付加価値が低い。
工業化を図ろうとしてもそれへの関心がこれまでも低く、例えば外国の自動車メーカーが進出して来ても、その部品の70%は外国から調達せねばならない。国内でそれに応えられるだけの部品メーカーが存在しないからである。
しかも、これら国内の部品メーカーは過当競争を経験していないので価格的にも割高になる傾向がある。だから尚更輸出力はなく、国内の需要に応えるだけで競争を避けようとする。それで挙げた利益は外国のタックスヘイブン地域に預ける。利益を積極的に投資して企業を拡張してコストダウンから輸出力をつけようとすることに関心が薄い。
しかも他の業界も同様で、市場での競争が少ないので希望する価格で販売しようとする。それがまたインフレを煽ることに繋がる。例えば、200社ある大手企業の内の60社はライバルがいないという寡占状態にあるという。
戦後の発展の祖となったペロン将軍も輸出にはあまり関心を寄せず国内産業の柱にある産業を国営化させて発展させようとした。また、労働者にも恩恵が渡るようにした。ということから公共支出が増大し財政赤字からインフレを招くようになった。このようなやり方が今も踏襲されている。
その一方で国民もドルを保有しようとする傾向にあるため、ドルへの需要は非常に高いが、その需要に応えるだけのドルがないという事情がある。
しかも負債をドルで抱えているためペソが下落すればそれだけ負債額も増える、、、というわけだ。