受注額4位に、ユースビオという聞きなれない会社名が
500億円以上の税金を投入して配られた「アベノマスク」
「官邸スタッフは『総理室の一部が突っ走った。あれは失敗』と振り返る」――新型コロナ対応民間臨時調査会(小林喜光委員長)が10月に刊行した「調査・検証報告書」の一節だ。
「政府の国民への最初の支援が布マスク2枚、といった印象を国民に与えた。政策コミュニケーションとしては問題の多い施策だった」
コロナウイルス感染防止を目的に布製マスクの全戸配布を試みた、いわゆるアベノマスクの政策について、報告書は厳しい評価を下している。
厚生労働省マスク班によれば、アベノマスク事業に費やした公金は、全戸配布分が約260億円(予算約466億円)、介護施設用約247億円(同504億円)にのぼる。締めて500億円を超す。
配布されたマスクはすべて中国やベトナムからの輸入品で、調達については11業者が計318億円で受注している。10億円以上の契約をした業者は4社。
興和140億円、マツオカコーポレーション63.8億円、伊藤忠商事52億円、そしてユースビオが31.8億円。ユースビオの契約高は、親族会社シマトレーディングと分業で調達した契約があり、これを加えると約34億円である。
競売にかかっていたユースビオ社長宅(福島市)。現在はユースビオが所有し、同社の本社になっている
ユースビオという会社名が厚労省によって公表されたのは4月27日のことだった。福島みずほ参議院議員が4月10日に質問してから半月以上も経っていた。
この会社、ホームページはおろか電話番号案内の届けすらない。会社謄本によれば、設立は2017年、資本金1000万円で役員は樋山茂社長ひとり。福島市の住所地を探すと、プレハブづくりの小さな事務所に行き着いたが、そこに看板はなかった。郵便受けにも社名はない。
謄本の会社設立目的をみても、マスクとは関係のなさそうなものばかりだ。「再生可能エネルギー生産システムの研究開発及び販売」「バイオガス発酵システムの研究開発及び販売」「発電及び売電に関する事業」。仕事の実態は不明、政府や地方自治体の契約をした実績もない。
この一見して実態のわからない会社が、どうやって30億円以上の大型契約を国との間で交わしたのか。誰しも気になるだろう。
なお、契約は
「緊急随意契約」で行われた。入札が不要で、かつ通常の随意契約に求められる財務大臣の審査も不要という会計法の特例である。
契約に至った事情について樋山社長は今年4月の『バズフィードニュース』のインタビューで、
「山形県職員につないでもらった」という趣旨の説明をしている。しかし筆者が山形県に取材すると、職員は
「つないでいない」と否定した。一方、国会では加藤勝信厚労大臣がこう答弁している。
「経産省が主体となって広く声がけをした。それに応えていただいた事業者の一社だ」
ところが、これも経産省に取材すると
「ユースビオに同省から声をかけたことはない。ユースビオのほうから聞きつけて接近してきた」と回答した。何が本当なのかはわからない。